第六話 宿にて
夕食を食べた後は、三日間泊まることとなるホテルへと向かった。
思っていたよりも高級感が漂っており、質の悪い場所に泊まることになるのだろうかという懸念は払拭された。
部屋は俺と千堂の二人部屋で、気を使うことなくくつろぐことができそうだ。
トランクを部屋に運び込むなり、俺は毎回恒例の『ベッドへダイブ!』を行った。『ベッドへダイブ!』とは、その名の通りベッドへとダイブすることである!
飛び込んだ瞬間、ばふっと大きな音が鳴る。それと同時に俺はベッドの感触を確かめた。
…まあ、ベッドはまあまあだな。
柔らかすぎず、されど硬すぎずといった中途半端な感じで、あまり俺の好みではなかった。
「よくそんな体力残ってるな…」
後から続いてきた千堂がやつれた声で言った。
トランクを運び込む様は、齢経た老人そのもので今にも倒れてしまいそうだった。
俺はあおむけの状態から起き上がり、ベッドの上で胡坐をかき千堂の方へ向いた。
「いや、確かに疲れてはいるけどさ…そこまでは疲れてねえよ」
「もう、朝起きた時から眠いし…やっとゆっくりできる場所に着いたと思ったら一気に疲れがきて…」
「そんなんで明日から三日間乗り切れるのかよ?」
千堂は俺の隣に備えられたベッドにたどり着くと、返事もそこそこに眠るようにベッドへと倒れこんだ。これは『ベッドへダイブ!』なんて楽しげなものじゃない。『ベッドでDie!』って感じだ。
「寝たらやばいぞ、セン。まだ風呂入ってないんだから」
「うーん」
返事も生気のないもので、体調悪いんじゃないかって思ってしまうくらいだった。
実は、俺もなにかしていないと千堂と同じように死んだように眠ってしまうかもしれない。初日でテンションを上げすぎたこともあって、本当に疲れたのだ。
千堂も今は動く気がないようなので、俺は先に風呂へと入ることにした。
「先に風呂入るからなー」
千堂はうつ伏せのまま右手を上げて肯定の意思表示をした。俺はトランクの中から洗面用具と着替えを取り出すと、のそのそと風呂場へと向かった。
風呂場はジャグジー式の、モダンなホテルではお馴染みの造りだった。
温かいお湯でさっぱりとしながら、俺は一人物思いに耽る。
今日は、双葉とろくに喋れなかったな…。
ノーザンホースパークで少し喋ったが、あれを楽しい会話の中には含めたくない。付き合ってからは毎日のように話していたから、その分思うところがある。
双葉に会うことができるのならできるだけ長く彼女と喋っていたいと思うのは、俺の自己中心的な考えなのだろうか。
陰ってきた心を洗い流すように、俺は頭の上から勢いよくシャワーを浴びた。一抹の不安を必死に取り去るように。明日も彼女の前で笑っていられるように。
こうして、修学旅行の一日目は終わった。
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