第四話 言い訳をさせて下さい
「YEAYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
やっと修学旅行のテンションが出てきたのか、そりで滑ると同時に奇声に似た叫び声が自然と出てきた。学校でこんなことをしていたら白い目を向けられそうだけど、今はみんな俺のことを面白そうにけたけたと笑っていた。
正直そんなに盛り上がれるほど距離も角度もないけれど、こういうのは本人の気持ちと周りの空気次第である。というわけで俺は我を忘れて楽しむことにするぜひゃっはー!
俺みたいに過度にははしゃいでいないが、千堂も楽しそうに滑っていて、存分に修学旅行を謳歌しているようだった。
「ねえ、武野―! 一緒に滑ろー!」
「ああ、いいぞ!」
そりで滑り終わると、女友達から声を掛けられた。この雪ぞりを狙っていたのは俺たちだけじゃなかったらしく、来たころにはすでに何人かの女子が遊んでいた。
言われるがまま、俺は女子たちと共にそりを引きずりながら、そのてっぺんへと登って行った。
「武野、うつ伏せで滑ってみてよ」
「いや…それはちょっと怖いんだけど」
「そんなに高くないし急でもないじゃん! 情けないねー男子なのに」
「ほんとだよねー」
自分たちはそうやって滑らないくせに、女子どもはひそひそとああだこうだ言っていた。
どうせなにを言っても聞きやしないだろう。俺は半ば投げやりになった。
「わかった、わかったよ! やればいいんだろやれば!」
「さっすが! それじゃあ、レッツゴー!」
「ちょ、押すなって、おい!」
楽しいものを早く見たいのかなんなのか、女子たちはうきうきとして俺の背中をぐいぐい押してくる。急かされた俺はてきぱきと動きうつ伏せになってそりの上に乗ると、少し気合を入れた。実際見てみても大した高さではないが、それでも怖いものは怖いのである。
そして、覚悟を「よし!」と決めたと同時くらいに、
「ゴー!」
「は?」
後ろから押された。弾んだような声だったが、冗談ではない。俺はわけのわからぬまま、突然、雪でできた坂道に放りだされたのである。
「うおおおおお!?」
先ほどとは違った色を帯びた、心からの叫び声。全体重がかけられ、速度と勢いを増した俺は、終着点である雪で築かれた小さな塀に頭っから激突した。
「うぷっ」
「あははははは!」
遠くから女子たちが声を張り上げて笑っているのが聞こえる。雪に突っ込んで冷えているのにもかかわらず、俺は顔が羞恥によって火照っていくのがわかった。
俺はそりをどかして雪を払い、女子たちに怒りをぶつける。
「おい、ふざけんなよお前ら! なんで急に押すんだ――」
しかし、その言葉は途中でどこかへと吹っ飛んでいった。俺は、言葉を失ってしまった。
雪の坂へと続く道から他の三人も連れて、双葉がいつの間にかこちらを無表情で見つめてきていたのだ。
ごくりとのどの音が鳴る。こんなに寒いというのに、冷たい汗がだらだらと流れてくる。
これはもしかして、マズい状況なのではないだろうか。
女子たちに笑いものにされたことへの怒りは、あまりの衝撃で雪の上に落っことしてしまった。
足早に双葉のもとへと歩いていき、慌てて弁解をした。
「いや、その、ただ遊んでただけだから…っていうのもおかしいか、えっと…」
「?」
俺が誰に言われたわけでもなく、たどたどしい口調で言い訳じみたことを言ったが、双葉はきょとんとした様子だった。
「なにをそんなに焦ってるの?」
双葉のその言葉には暗さは全くなく、本気でなにを言っているかわからないようだった。俺の独り相撲だったのかと思い、恥ずかしさでどこかに身を隠してしまいたい気分になった。
俺は不思議そうな顔をしている双葉に、正直に自分が思っていたことを話した。
「え、だって、その…他の女子と盛り上がってたから気を悪くしたかなって…」
「ああ、そんなこと?」
「そんなことって…」
「別にいいんじゃない? オレは全然かまわないけど」
きっと本心からの言葉なのだろう。双葉の挙動は驚くほど平素なものだった。
一瞬焦ったけど、大事に至らなくて本当に良かった…次からは気をつけよう…。
でも、嫉妬してくれないっていうのも、ちょっと残念だな…。
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