第三話 ハッピーなバースデイ

 双葉に許可をもらい、俺は期待に胸を膨らませながら、紙袋の封を開けたのだった。


 が、俺の期待は風船がしぼむように小さくなっていった。


「これ…」

「うん、リッツ」

「…なんで、これ…?」


 紙袋に入っていたのはどこからどう見ても、リッツ(箱入り)に他ならなかった。ハッピーターンじゃないのかよ。そこは、せめてハッピーターンにしようよ。

 中に何か入っていないかと、箱をぱっと眺めてみても細工をされた形跡はなく、俺は粛々と現実を受け止めることにした。


 これでもプレゼントをもらうだけで嬉しいし、なにより双葉から初めて貰ったものである。これで喜ばない方がおかしい。


「ありがと、味わって食べるよ」

「うん、味わって食べてください!」


 双葉は満面の笑みを浮かべてそう言うと、鞄を背負って帰っていった。

 俺も、紙袋を片手に、早く帰ってリッツを食すべく、寮へと帰った。




 寮の自室へと戻って着替えをしていると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。そして、宗谷先輩(暇人)がぬるっと入って来た。


「よう」

「お疲れ様です」


 そして、軽く挨拶を済ませると、宗谷先輩はいつものように奥のイスに座った。

 すると、すぐそばにある勉強机に置いた紙袋に気が付いたらしく、それを手に取った。


「武野、これなに――」

「触るなァ!」

「びっくりした、なんだよ…」


 俺の叫び声に宗谷先輩は肩を震わせると、そっと紙袋を戻した。

 それと同時に普段着に着替え終わった俺は、机から紙袋を取って、ベッドへと座った。


「全く、油断も隙も無い先輩ですね…」

「一体なんなんだよ、それ…」


 俺は肩をすくませて、首を横に振りながら言った。


「わかってないですねえ、先輩」

「わかるわけないだろ」

「誕生日プレゼントですよ。彼女からの」


 素直にそう言ってやると、先輩は得心したようだった。


「あー、なるほど。お前、今日誕生日だったんだな」


 さすが俺の誕生日。知名度低いぜ!


 先輩との会話もさておき、俺は紙袋からリッツを取り出すと、切り取り口をバリバリと綺麗に剥がしていくと、俺の目に思いもしていなかったものが映った。


「これは…」


 取り出してみると、それは忠実に再現された、白熊の立てかけるメモホルダーだった。白熊が入っていなかった隙間には、ぎっしりとハッピーターンが詰められている。そして、一通の小さな手紙。


「どうしたんだ?」

「いや…ちょっと」


 俺は急いでその手紙を取り出した。そして、食い入るようにその文字を目で追う。


『誕生日おめでとうございますぅ!

 リッツだと思った? 残念! ハッピーターンでした!

 しろくま可愛いだろ!

                 これからもよろしくお願いします

                          2016.1.23 ふたばより』


「ははっ」


 先輩がいるというのに、俺は隠しもせず笑った。笑わずにはいられなかった。

 とんでもないサプライズだった。こんなに鮮やかに驚かされたのは初めてだ。

 箱の裏側をよく見ると、本当に小さく、爪で剥がした跡があった。こんなの、どうやったって気づきっこない。


 やっぱり、双葉は俺の予想を超えてくる。いつ、いかなる時でも。

 幸せな気持ちで食べたハッピーターンだったけど、こいつもいつもと変わらずしょっぱかった。


 双葉の誕生日には、これを越えなきゃならないな…。


 そんなことを思いながら、俺は双葉が一緒にいてくれる幸せを、ハッピーターンと共に噛み締めたのだった。


「なにがあったんだよ、聞いてよ」


 相変わらずな宗谷先輩を一人、置いてきぼりにして。

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