第二話 プレゼント

 テストが終わり、休日をまたいだ月曜日。今日は一月二十三日だ。

 そう、俺の誕生日である。


 毎年、自分の誕生日は祝われることがない。祝ってくれるのは親くらいのものである。

 別に友達がいないとかそういうことじゃない。まず、俺の誕生日を覚えている人が少ないし、そもそも俺が人の誕生日を祝う習慣がないからだ。…あれ、でも貰えたりはするんじゃ…いや、友達がいないわけじゃない、断じて。


 ともかく、毎年人から誕生日を祝われない俺だが、今年は違う。絶対に一人から祝われるし、それが楽しみで仕方がない。


 今年は、双葉がいるから!

 彼女いるんで!

 勝ち組だ! ふぅははははは!


「なに一人で笑ってんだ、きもいな」

「あ、すいません」


 廊下一人ニヤニヤしていると、千堂から冷めた目で見られた。


「お前、こんなとこでなにしてんの?」

「いや、杉下待ってるんだけど…」

「なんかあんのか?」

「誕生日を祝ってもらうのを待っている!」

「…」

「…」


 俺が勢いよくそう言うと、二人の間に沈黙が流れた。

 そして千堂が呆れたように俺に言う。


「あのさ、武野…」

「…」

「わかってると思うけど…」

「言うな、ほんとにわかってるから!」

「もう、放課後だぞ…」


 時刻は五時ちょっと前。終礼が終わり、皆が下校したり部活に行ったりとする時間帯だ。

 午前中は楽しみにしていたのだけれど、午後からだんだん不安になってきて、終礼が終わると同時に忘れられたのかと不安になってきた。


「女々しいな。女子か、お前は」

「不満とかじゃなくてなあ! 俺は期待を裏切られた感じがしてすっきりしないんだよお!」


 自分でも女々しいとはわかっているが、嘆かずにはいられない。


「この際、ハッピーターンでもいいから欲しい」

「なんで急にハッピーターンをディスったし…」

「もう、放っておいてくれ…やっぱり俺は勘違い野郎なんだ…」

「やさぐれんなよ…」


 膝を抱えて座り込む俺に、千堂は疲れたように言った。


「ほら、お前のお待ちかねの杉下が来たぞ、顔上げろ」

「え?」


 千堂のその一言に、俺は顔を跳ね上げた。


「お待ちかねってなに?」


 そこには、片手にオシャレにデコレートされた紙袋を下げた双葉が首をかしげて立っていた。


「ああ、こいつがたn――」

「なんでもないよ、なんでもない! 千堂の言うことなんて気にしなくていいから!」

「え? そう? なんか気になるんだけど…」

「気にならない!」


 俺が立ち上がり、すごい剣幕でそう言ったものだから、双葉はそれ以上聞いてこなかった。

 それよりも、俺は片手に下げられた紙袋の方がはるかに気になります。


「じゃ、俺帰るわ」

「あ、おう。じゃあなー」

「バイバーイ」


 鞄を背負い、千堂は帰っていった。俺と双葉は手を振ってそれを見送った。

 千堂を見送った後、俺と双葉は向き直った。


「それで、これ…誕生日おめでとう」

「おう、ありがとう」


 さっきまでの茶番がなかったかのように、俺は極めて冷静にプレゼントを受け取った。


「見てもいいか?」

「うん、いいよ」


 双葉に許可をもらい、俺は期待に胸を膨らませながら、紙袋の封を開けたのだった。

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