第五話 忘年会
日は流れて、何ともなく過ごしていたら、冬休みは勝手にやって来た。
今日は約束の十二月の二十八日。昼の一時ごろに俺たちは、友達の一人である
佐野も、相坂と同じく中二からの仲だ。杉下姉妹に比べて、まだ落ち着きがあり、規格外の行動を取ったりはしない。だからといって、おしとやか、ということもないけれど。
佐野を一言で言い表そうとすれば、普通という言葉が当てはまると思う。俺の語彙力の少なさもあるのかもしれないが、それが一番しっくりくる。何か特出した特徴は特にないが、存在感が薄いといった印象もない。強いて言えば、女子の割に身長が高いと言ったところだろうか。
佐野の家は、住宅街の一角にある二階建ての一軒家で、そこのリビングに俺たちは案内された。
ダイニング、リビング、キッチンが一緒になった部屋で、一般家庭の手本みたいな間取りをしていた。リビングにはグレーの絨毯が敷かれ、一角には大きなソファとテレビが置いてあった。ダイニングには六人掛けくらいのダイニングテーブルが置かれ、今日集まった全員で座ってちょうどいいような大きさだった。
今日は鍋パーティー(友達で鍋を囲むもの)とやらをするらしく、肉や野菜といった食材が並べてあるのが、台所で見受けられた。
俺はもう一人の男子と共に、女性陣(杉下姉妹、相坂、佐野)が台所で鍋の準備をしている間、リビングでだらけていた。
「俺たち、手伝わなくていいのかな?」
鍋の準備を女子だけに任せてしまっている状況が心苦しく、目の前で寝そべっている男子にそう問いかけると、彼は気にも留めていないようにさらっと答えた。
「あいつらに任せとけばいいだろ。俺たちが手伝いに行ったところで、足手まといになるだけだしさ」
俺はこいつほどツンデレを体現したようなやつを今まで俺は見たことがない。意地っ張りで、格好つけたがり。本人は否定しているが、俺にはそうとしか思えない。
中二の頃から手を焼くやつで、とにかく素直じゃないのだ。ヒステリックではないが感情の起伏が激しく、人の言うことを聞かず自由気ままに動く。端島と話していると、さながら子どもの相手をしているような気分に陥る。
端島の思いやりのないその返答に俺が頭を悩ませていると、端島は急に笑顔になり、起き上がってきた。
「それより武野、あそこにWeeあるじゃん」
言いながら端島が指差したのは、テレビに備え付けられていた、テレビゲーム機だった。
「これやっていいか聞いてこいよ」
その発言にはさすがに、俺は顔をしかめた。
「お前…女子が準備してる間にゲームして遊ぶ気かよ。さすがにそれはないだろ」
「いいじゃん。だって暇だし」
端島の頭の中がどうなっているのか、本気でのぞいてみたくなる時が多々ある。どう考えても、こいつの思考回路は人間性にかけていると俺は思う。
俺は、端島のそんな態度にどこか怒りを感じ、不機嫌に言った。
「おとなしく待ってろって。後からやらせてもらえばいいだろ」
「だって今暇なんだもん。今やらないと、仕方ないでしょ」
「俺は絶対行かねえからな」
「は? 行けよ、チキってんのか」
「違えよ。非常識だっつってんだよ」
「あっそ。じゃあ、お前絶対やんなよ。後から後悔しても知らねえからな」
端島は吐き捨てるようにそう言って立ち上がると、ズカズカと台所へ歩いていき、遠慮なく佐野にWeeを貸してもらえるよう頼んでいた。
ちなみに、今の口論のようなものは俺たちにとって喧嘩には入らない。ただ、端島がふてくされて、俺が不機嫌になるだけだ。それは喧嘩なんじゃないかと思うかもしれないが、時間がたてばすぐにケロッとするので、別に喧嘩でも何でもない。
結局、佐野は快くWeeを貸してくれて、端島はその中で『パリオブラザーズWee』をすることにしたようだった。ちなみに、端島の相手は手が空いていた相坂がやることになった。俺はソファに腰を落ち着け、二人のプレーを見ながら、鍋の完成を待っていた。
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