第四話 結局
「どうしたのそのクマ」
「いや……最近、寝つき悪くって……」
件の話を聞いてから二日たった今日、俺はトマトのように赤く充血しているであろう目を擦りながら、相坂、一香と話していた。
結論からすると、俺の気持ちは晴れ晴れとなんかしていなかった。むしろ、余計悶々とした気持ちになっていたのだ。
それはそうだと、今さらながらに思う。双葉の想いを、彼女から伝えられる前に知ってしまったのだ。そのため、罪悪感のような、もどかしいような思いが俺の中で堂々巡りをしており、夜も眠れない毎日を過ごしていたのであった。
俺は自分がそうなる原因を作った張本人に、半ば八つ当たりのように言った。
「それもこれも全部お前のせいだからな」
しかし、相坂はケロッとした顔でかわした。
「え? 何の事?」
「わざわざ俺にあんなこと言いやがって、ふざけんなよお前」
「そうだよ、何で言っちゃったの!」
俺に乗っかって一香が抗議の声を上げた。相坂があまりにも簡単に俺に双葉のことを教えてくれたものだから、そこまで隠されるものではないのかと疑問に思っていたが、どうやら違っていたらしい。
一香は、今日も抜群のプロポーションをしており、可愛いと素直に言えるほどの魅力を出していた。身長は決して高くないが、スタイルがよく、切り揃えられたショートボブもよく似合っていた。
一香に怒られた相坂は、あまり悪びれた様子もなく謝っていた。
「ごめん、口が滑って……」
「あー、もう! これから徐々にくっつけていこうって思ってたのに」
怖ッ!
無意識に出た言葉かもしれないけど、それめっちゃ怖いっすよ一香サン!
知らないままだったら、俺は気づかぬまま一香の手の掌の上で踊らされることになっていたのかもしれない。そう考えると、背筋がぞっとした。
「あ、そう言えば武野、十二月の二十八日、空いてる?」
「おお、空いてるけど」
「今年はクリスマス会やるの難しそうでさ、たぶん忘年会って形になると思うけど……いいかな?」
「ああ、大丈夫」
「じゃ、武野は決まりねー」
俺は女子の急激な話題転換に驚かざるを得なかった。さっきの流れからこの話題振るとか衝撃過ぎる。と言うのも、一香の言うこの忘年会というものは、今の俺にとってドキドキが止まらない代物なのだ。本当に、ドキドキしすぎて心臓止まりかねないレベルで。
相坂または一香主催で毎年開かれるクリスマス会(今年は忘年会になるらしい)は、彼女ら曰くいつメン(いつものメンバーの略)で遊ぼうという企画なのである。
そして、そのいつメンの中に当然、双葉が入っているわけで……。
そう考えると、奈良の大仏がのしかかってきたんじゃないかと思うくらい、気が重くなってくる。
クラスが違うということもあってか、最近はめっきり話していない。だから、次に話すのはその忘年会の日になるんじゃないかと思う。
それまでは、俺はきっとこのもやもやとした気持ちに苛まされながら日々を過ごしてくことになるのだろう。そう思うと、俺はまた気が重くなって、人生で一番長いであろうため息を吐いた。
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