第3話 僕とバイト
「仕送りはできんけえ、生活費はなんとかしんしゃいよ」
僕を東京へ見送ってくれた母は、今もこの言葉をしっかりと守っている。
本当は、本当はちょっと期待していた。もしかしたらお金を用立ててくれるんじゃないかって。何ならお米くらい送ってくれるんじゃないかって。
これが巣立つということですね母さん。
そんなこんなで、僕はまかない付のバイトを始めた。
何といっても成長期。腹は減る。量を食べたい。ということで、レストランの厨房で働くことにした。
オーナーシェフは、ホールでの笑顔でおしゃれな見かけと違い、義理人情に熱いおじさんで、とにかく僕をかわいがってくれた。
「とにかく人の資本は体だからな。本業の勉強しっかりするためにも、毎日ちゃんと食べることが大切なんだぞ」
そういうと、バシバシ僕の背中を叩いた。
わっはっはと笑う声がどこまでもでかく、何とも外も中もでっかい人だった。
何があってもふきとばないこの感じ、タネ子さんにぴったりなんじゃないか。
一瞬ウエディング姿のタネ子さんを想像したが、自己啓発本が愛読書のタネ子さんじゃ、オーナーとのデートは厳しいかと即打ち消された。
とりあえず今日はヒマだからと、シルバー磨きを命じられる。
ひたすらフォークとスプーンを専用クロスで磨いて磨いて、気づけば10時をまわっていた。
バイト仲間は、年代や通っている学校もいろいろで、学校の友達とは違った刺激があった。お金だけじゃなく、こういうのってやっぱ大事だなって思う。
医学療法を学びたくて今の学校へ入ったけど、いろんな仕事を体験しておくことも、今しかできないし、面白いかもしれない。
そういえば、僕はタネ子さんの仕事を知らない。
朝出勤するときのタネ子さんをたまに見かけたことがあるけれど、スーツがばっちりきまっていて、これがキャリアウーマンってやつかなんて思った。
いつも仕事の愚痴は聞いているけど、一体彼女は何をやっているんだろう。
「くあ、、」
慣れない立ち仕事に、自然とあくびがでてしまう。
明日は2限目からで助かった。
アパートは、珍しくどの部屋もまっくらだった。
タネ子さんも、今日はおとなしく自分の部屋で寝ているんだろう。
なんとも迷惑で不思議な隣人タネ子さん。
その時初めて、アパートの外のタネ子さんをふと覗いてみたいな、なんて思った。
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