第2話 タネ子とメガネくん
悩みのタネ子。
これがとなりの大学生につけられたあだ名だ。
私は昔から人見知りが激しい。人とのつながりをつくるのが苦手だ。
だから友達も少ない。
考えを言葉にすることも苦手だ。
本当は、友達がたくさんいる人がうらやましい。私もそんな風になりたい。
そう願いながら、結局ひざをかかえて動かないうなだれた毎日が楽で、自分から動くことをしない。
あぁ、どうしよう。あぁ嫌われたかな。どう思われているんだろう。
「それは考えても仕方ないことですね」
私が口癖のようにこぼす不安材料を、となりのメガネくんはタン、と切っていく。
包丁で大根をまっぷたつにするように。
考えて対策をうつべきことと、考えてもどうしようもないことに。
「今夜はカレーと大根サラダにしましょう」
そうさっぱり言い切る姿さえ、羨ましく恨めしいと感じてしまう。
正直、今までこんなにも自分のダメなところをさらけ出せた相手はいなかった。
付き合った相手にも、いつもどうしようもなく背伸びをして格好つけてしまう。
幻滅されないよう、楽しんでもらえるよう。
本当は、いつも不安なのに。いつも怖くて、悩んで、怯えているのに。
いい大人がと言われるのが嫌で、必死に無理して無理して。
「あぁ、私って本当だめな大人だあ」
体育座りでため息をつく。
「人んちあがりこんで夕飯たかってたらそりゃダメな大人ですね。
はい、大根サラダ仕分けてください」
メガネくんが、心から迷惑そうな顔でサラダボールを押し付けてくる。
若いのに自炊もして。偉いな。
しかし、そんな私たちの間に、恋愛感情はない。
この距離感は、いつか終わる。
どちらかに好きな人ができた、そこでお終い。
「何スカ」
「いや、別に」
思わず持ってきた自己啓発本に手がのびる。
いや、だから手伝って下さいよというつっこみは無視をした。
いつかくる別れの日までに、もう少し強くならんとね。
姉と弟、そんなくらいがちょうどいい、私とメガネくんの距離。
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