第四章
カネルは、ただ一人、五十騎へと立ち向かっていく。
「いつも耳にしていただろう、キルス様に仕える側近の女騎士、カネルとは私のことだ! 死ぬ前によく目に焼き付けておけ! 加えて、私の名は王国騎士長として王国に君臨するヨクス様にも知れ渡っている。私を討って、ヨクス殿の前へ御覧に入れてみよ!」
そう大声で言いながら馬を走らせ、弓を構えると残っていた八本の矢を次々に放った。
死んだか否かはさておき、矢は確実に敵を捕らえ、八騎が潰れた。
矢のなくなった後は、抜刀をして次々と敵を斬って回る。その、ちょこまかとあちこちへ行く動きに敵の雑多兵は正面からも立ち向かえず、大勢がみすみすやられていった。
敵の隊長である下級騎士のイーギルは、周りを取り囲み、矢を放つように指示する。
放たれた矢は次々とカネルに当たるが、鎧が良い物なのか、誰一人の矢も貫通することはなかった。
一方のキルスはというと、唯一人、アランの木へと馬を走らせていた。カネルと別れた場所から見えるところであったため、直ぐに着いた。しかし、もう夕暮れなうえに、時期は冬だった。林となっていたアランの木の回りは沼のような湖になっていて、薄氷は張り、底が深いところもあったがそれに気づかずキルスは進んでいく。
沼の上へ馬のまま向かうと、氷はすぐに割れ、不運にも深いところへ落ちてしまった。
馬の腹を蹴っても、鞭を打っても、一向に馬は動かない。
ふと、キルスはカネルが心配になり、後ろを向く。
すると丁度、後を追ってきたイーギルがキルスめがけて矢を放った。
矢は真っ直ぐキルスへと向かい、不幸にも甲冑の間をすり抜け額のど真ん中へ刺さってしまった。
キルスは一瞬、何が起こったのかわからなかったが、すぐに鈍い感覚が伝わり、力が抜けてきた。
そのまま馬の上で、上半身を屈むようにして倒れたキルスを見ると、イーギルは配下ともいえぬ手下どもを二人向かわせ、キルスを馬から降ろさせた。
そしてついに、キルスは首を斬られた。
イーギルは、首をつかんだ手を高らかに挙げ、大声を出し
「ヨグス様! このイグリース王国に名を挙げ、知らぬ者などいない女騎士キルスの首を、このイーギルが討ち取りました!」
と言った。これを聞いたカネルは、馬の走りを止めた。
今まで、護るために戦ってきたのに、その護るべき人が死んだ。これ以上、戦う必要があるか。彼女は悲しさと虚しさで頭がいっぱいになった。
そして
「もうよい。いいか雑魚共が! このイグリース王国一の勇猛な女騎士が、騎士としての最期を見せてやる!」
そういうと、自らの剣を口にくわえ、そのまま逆さまに馬から飛び落ちた。
当たり前のごとく、剣はカネルの体を貫き、そのままカネルはキルスの後を追って逝った。
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