第三章
敵をまたもや掻い潜ると、すでにキルスとカネルの女騎士二騎となっていた。
ふと、キルスの口から言葉が漏れる。
「ふっ、いつも何事もなく着ているこの鎧が、今になってやけに重く感じるな」
「そんなことはありません、キルス様。貴方様はいつもの疲れたといっている時程まだ戦っておらず、お体も馬も、まだまだ疲れておりません。只、味方が私以外居ないから、少々臆病になっているだけです。このカネルを千騎の兵と思ってください、大丈夫です」
カネルはそう言ってキルスを励ます。
「確かに、そうだな」
キルスも軽く笑って見せるが、いつもとは違い、どこかに悲しみの表情が見て取れた。
「向こうに『アランの木』という木があります、そこへ行きましょう。もしまた敵が現れたら、私が防ぎますので」
カネルは分かっていた。このまま逃げても、いつかは殺される。なら、自決してしまったほうが騎士として誇りを持ったまま死ねると、キルスもそう思っていると。
二人がアランの木に向かっていると、また新たに敵の騎馬が五十騎程向かって来た。
「キルス様、ここは私にお任せを。早くアランの木へ!」
しかし、キルスは動こうとしなかった。
「私は、都で殺されても良いと考えていた。しかし、都にお前はいなかった。だから・・・・・・だからこそ、私はここまで逃げてきた! カネル、貴様と共に最期を迎えたい、その一心で! ここまで来て、別々に死ぬなど考えられん。私も、あの敵を迎え撃とう」
力強く言うと、馬の向いている方向をカネルと同じ、敵の方向へ向けた。
すると、カネルは自分の馬から飛び降り、キルスの馬の前へ出た。
「騎士というものは、何時、如何なる名誉を貰おうとも、死ぬときが悪ければ、一族全員のみならず、仕える家の者、また、その全ての末裔までも続く不名誉となります。キルス様はお体がお疲れになっている上に味方もいません。もしこれから来る無名の下級武士やその手下共に討ち取られ、『このイグリース王国に名を挙げ、知らぬ者などいない女騎士キルスの首を、私が討ち取りました』などと言われると、私は悔しくて悔しくて仕方ありません。私のためにも、キルス様はアランの木へ! 早く!」
説得されたキルスは、少しため息をつくと
「分かった。ここまでなのは不服だが、致し方ない。さらばだ」
と言い残し、キルスは単身、アランの木へと向かっていった。
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