あたし生きてるし料理も上手だし

しじみの筆箱

あたし生きてるし料理も上手だし

あたし生きてるし料理も上手だし

 吐いたおっさんや、そういう意味で触ろうとしてくる人間や、殴ってきたりするやつらを相手する。一言で自分の仕事を紹介せよと言われたらこんなもんだ。普通に飲み屋と言いたい所だが、それだけだと元気な看板娘が「麦酒二つ」なんて声かけられて「はい、ただいま」なんて光景を相手が勝手に妄想しそうだから、私が勝手にイライラするいうだけの話だ。

 そんな誰が聞いてる訳でも誰に聞かれた訳でもない話を、その吐いたおっさんとかを相手する仕事の帰りに考える。

 看板娘なんて言葉が似合う女はいないし、水で薄めた安酒を貧民向けに出してる小汚い店だ。つまみも、名酒なんてのもない。浮浪者みたいな男が吐いた床を掃除して酔っぱらった男に暴力を振るわれる。そんな仕事で貰えるお金がないと生活できない。惨めだ。

 さっさと仕事を変えたらよかったんだと、数年前の自分に対して聞こえるはずのない文句を言う。

 別にアレは数年前何てプロローグから話を始めるつもりも、そんな出来事もない。ただ、当時の店長に恋をしたという実にくだらなく、呆れた理由だ。

 恋してたなんて事を思い出して自分に対して腹が立ち、何か八つ当たりできる物はないかと、あたりを見渡す。

 すると、家への帰り道と違う方向、と言っても真逆とかではなく少し東にそれるだろうというだけの、人と人がすれ違うことはできなさそうな細い路地があった。

 そんな路地に入った所で、浮浪者に金目の物奪われるとか、犯されるそんなことが起こりそうだが、なぜかそんなこと起こらないだろうと自分でも理解できない絶対的な自信を抱きふらーっとそこに入っていった。

 横の建物が少し高い建物だったので道が見えづらく、このまま闇に消えてしまえるんじゃないか何て思い始める。

 今日はやけに馬鹿げたことを自分は考えるな、何てこれまた、馬鹿げたことを考えながら、そろそろ大通りに戻ろうかなんて思って次の道を左に曲がったら大通りだろうとこれまた、よくわからない自信を抱いて次の道を左に曲がると決めた。

 後一歩だ。次の左の道に差し掛かったときに何となくそう数えそして曲がった。その瞬間曲がらなかったらよかったとすぐに後悔した。

 壁にもたれかかり、生気のない人影があった。浮浪者だ。そう出なかったらこんな路地裏にそんな状態でいないだろう。だが、大通りから差し込むあかりでよく見ると、幾分かこぎれいな格好をし、髪も整えられている。スカートをはいてるので女、少女だろう。

 ならば、お忍びで街に着て路地裏なんかに入っちゃって犯されたお嬢様だろうか。かわいそうに何て思いながら、それなら、生きてるかの確認をしようと近づいた。

 だいたいこういうお嬢様は死んでいることや生きていることを知らせてくれた者には褒美や口止め料が渡される。臨時収入があるのはありがたいとその少女に近づいて、ちらりと顔を見る。虚ろな、茶色い目は何も映してなくて口がだらしなく半開きになっていた。

 これは、死亡だな。そう思い警備隊に知らせてくるかと立ち上がり、大通りに行こうとした瞬間足に何か引っ掛かった。そして、危うくこけそうになったのを壁に手をつきとどまる。

 何に引っ掛かったんだと少女のほうを見るとその少女の足らしく、死人の足に引っ掛かるとかついてないななんて考えて、その少女に怪我や、なにかができたりしていないかもう一度その少女の顔を見た。

 いや、見る前に異常に気がついた。声と言うよりうめき声に近い何かが聞こえた。というよりその少女から明らかに声は発せられており、その少女が発してるうめき声なんだと気がついた。

「……生きてんだ」

 何となく思ったことを口に出した。明らかにあの虚ろな目と半開きの口は死人の者だった。いや、死人なんてほとんど見たことないがそれに近かった。

 すると、その少女のうめき声がとたんにしなくなった。どうしたのだろうかと顔を見ようとした瞬間、さっきと違い明確に声として聞ける者が少女から発せられた。

「あたし、生きてるし……りょ……うりも上手……じょ……うずだ……し」

 あたし生きてるし料理も上手だし。とぎれとぎれで前半はまだ分かるが後半は明らかに今必要な情報じゃないし聞いてもいない。

 大丈夫だろうか。

 いや、こんな路地裏でこんな明らかに犯されましたという感じをさらけ出した少女が大丈夫なわけないかと一人で納得し、この状態で警備隊を呼びにいこうにも、置いていったらまた一発浮浪者にやられそうだし、かといってこれをつれていくのは問答無用で私が警備隊にしょっぴかれそうだしで、どうしようかと考える。

「けい……び…たいはやだ」

 思わず聞こえた声に私はさっきみたいに思ったことを口に出したのだろうかと思ったがあきらかに声は発してなかった。

 心が読める何て化け物じみたことをやったのか、はたまたお嬢様だから考えついたのがそれだったかと考えてやだって言われてもと内心思う。

「……じゃあ私の家くる?」

 何を言ってるのだろうかと自分に対して思うが、やっぱり今の発言撤回なんて言う余地もなく「うん」と了承の返事をされた。

 一度言いだしたのならそれを嘘にするなななんていう馬鹿げた教えをされた人間としては撤回して見放すのは諦めて連れて行くかとすぐに切り替える。

「立って歩ける?」

 それができたら私はおんぶとかだっことかしなくていいし楽なんだけど。そう続けたいが押し黙って相手の返答を待つ。いわれて立ち上げって見ようとして地面に手をついてその手に力を込める。が、無理みたいで首を振った。

「……ちょっとごめん」

 そういって、くすんだ緑の上着を脱いでその少女にかけて、横抱きをする。想像していたよりは軽く拍子抜けするがかといって重たくない訳では無いので落ちない様にさせないととう出に力を込めて歩き出した。

 大通りには時間が時間だからか人は全くと言っていいほど居らず、自分のいつもより早足なブーツの音が大通りに響く。腕の重みは確かで路地が見せていた幻覚じゃないのだななんて又馬鹿げたことを考えた。

 大通りから少し脇にそれた借家に慌てる様に駆け込み灯をつけて、風呂なんて物はないので水をためてある台所に連れて行き、その水がためてある桶の隣に下ろす。麻の布に水をしみ込ませ、絞りその少女の体を拭いていく。

 麻の布が痛いのか少し嫌そうな顔をしたがこれは妥協してもらうしかない。

 汚れが拭き取れた肌は、白く、手先は先ほどの料理上手発言とはほど遠いほど綺麗な手だった。

「残りはふける?」

 残り。簡単に言えば服を着ている部分だ。それすらもできないのか少しうつむく。

 何でこんな事までしないと行けないのだろうと考えながら、少し豪華なだけのワンピースだった事に感謝して服をめくり脱がせていく。

 下着も着ていたがこの流れだとどうせ拭くことになるのだろうと脱がせた。幸いにもこれも簡単な作りだったので脱がせていく。抵抗すらする力がないのか固まっているが少し恐ばている所を見るとやっぱそうなるよななんて一人納得した。

 ガキの体も、女の体も興味なんかねぇよと心の中で呟きながら淡々と拭いていく。

 だが、一つ気になることはあった。この少女の体を見る限り犯された訳では無いということだ。じゃあ何であんな所で浮浪者同然の姿でいたんだよと思うがそんなの少女しか知らない訳で、そんなこと知った所で意味はないと思った。

 知った所で面倒になる。きいてないことをかたりだすよっぱらいとか、馬鹿な女みたいなことはしないよなと願いながら、全体を拭いた後、自分のワンピースを一着引っ張りだし、少女に着せてそのまま自分の寝室なんて呼んでる所にあるベットなんて名ばかりの所に少女を放り込んだ。

 扉何て付いて無いので布のしきりをおろして灯を寝室に行かせない様にしてまた台所に戻り、ワンピースと下着を玄関まで持っていき玄関から外に出ると叩いて汚れを適当に落とした。

 夜に何やってんだなんてくだらないこと思いながら、まぁこんな日もあるかなんてこれまた馬鹿げたことを考えて家の中に入った。

 床に落ちてたくすんだ緑の上着を壁にかけてワンピースは明日にでも洗うか何て考えてこれからどうするかなんてのは考えるのが面倒くさくなって灯を消して手探りで寝室のしきりを探し、私もベットに転がり込んだ。

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