03思うよりも世界は広し

「正気正気。世界は私たちが思った以上にたくさんあるの。大げさに言うと、例えば魔法があったらとか科学がもっと発達していたらの世界。この世界ではありえないかもしれないけど、そういう違う世界では、そういう得体の知れない集団が国家を転覆させることもありえるでしょ?」

 頭が痛い。頭を抱え始めた朔利に、朱理がお茶のおかわりいかがですか?、とハーブティーを勧めてくる。それに答えないうちに、彼が朔利のティーカップにどぼどぼとお茶を注ぎ始める。すっきりとした香りが辺りに満ちるが、朔利の頭の中はちっともすっきりしなかった。

 朱理は自身のカップに口をつける。朔利もそれに倣って自身のカップに口をつけた。苛立つほど爽やかなにおいがするお茶だ。一週回って憎たらしく思えてきた。朱理は涼やかな表情で言葉を放つ。

「一朝一夕で納得するのは難しいので、そこはスルーしていただいても」

「でもそれは私と関係なくないですか? だってこの世界では付喪神の存在自体一般的ではないし、少なくとも日本はそんな不可解な力を持つ集団に転覆させられるような国じゃない」

「やっだなーさくりん。さくりん襲われたじゃん。あのムカデに」

「残念ながら関係なくなくのです。一つ目に瀬川さん、あなた夢を見るでしょう? あれは厳密に言うと夢ではありません。人々の営みや表情、仕草、言動、服装、なんだか妙にリアリティがありすぎると思ったことはありませんか?」

「……ないと言えば嘘になります」

「あれはもしもの世界、いわば並行世界です。あなたはその中に肉体を付随せず精神だけで訪れている状態です。私たちはそう言った者のことを”夢を跨ぐ者”と呼んでいますが、それに干渉ができるのは付喪神の宿主だけです」

「……? 別にいいんじゃないですか?」

「以前までは良かったのですが、先ほども言いましたがヤオシーの宿主となった今、非常に危険です。精神だけ、それも付喪神の扱いも武器の扱いも心得ていないためいわば丸腰の状態。ヤオシーの能力を希求する彼らと対峙したとき、運よく目を覚ますかでもしなければ確実に殺されます」

「まじですか」

「まじにございます」

 ぼーん、と時計が鳴る。朔利が腕時計で時刻を見れば夕方の六時だった。

 だんだん頭がこの非常事態に順応してきていることに心が崩れていきそうだ。

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