4-人生最大の悩み


僕が次にすすむべき治療をするには周りの理解が必要だった。

診断書をもらったあとは、ホルモン注射をする。そして、そのあと性別適合手術を受けられる。法的手続きもあって、改名や戸籍の変更。やることはたくさん。そして、治療には莫大な費用がかかった。このこともあって僕はワーキングホリデーに一緒にいけなかった。


女性が男性になるためにホルモン注射をうけると、一番わかりやすい変化は声だ。低くて男性らしい声になる。ひげも生えてくるし、顔つきもかわる。体も筋肉質になる。とても、気のせいと思えるような変化ではない。だから、この先治療にすすむには周りの理解が必要だった。学生じゃなく、社会人だから余計に気をつかった。働かせてもらっているから、いろんなところに影響がでると思った。一旦、一応女として働きだしたから、突然実はGIDで男なんですと言っても、受け入れてもらえるはずがない。混乱を招いて、迷惑だと思った。それに、仕事がなくなっても困るのが正直なところだ。治療に踏み切るタイミングを見計らっていた。


もう一つこのころの僕が悩んで治療に踏み切れない理由があった。

それは、僕が治療を進めていけば絶対に自分の血が繋がった子どもはもてなくなるということ。性別適合手術を受ければ、生殖機能は全て失うことになる。僕は、自分の性に悩みながらも、小さい時に抱いた温かい家庭をもちたいという夢が捨てきれなかった。子どももほしいし、ごくごく普通の家庭が築きたかった。そうなると、どちらかを選ばなきゃいけなくなる。ただ、家族をつくるということは、僕が僕じゃなくて、女として生きていかなきゃいけないということだ。


それに、子どもを授かるということは僕にとってかなりの覚悟がいる。正直、高校生のとき死にたくなるような思いをしたから、あんな思いはもうしたくなかった。僕はこの二つの悩みを抱えて、踏み切れずにいた。

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