2-出会い


小学校に入学して、最初の疑問はなんで赤いランドセルなのかな?だった。

紺がいいとずっと思っていた。だから、僕より2つ下の弟が入学するとき紺色のランドセルを買ってもらったのをみて、うらやましかった。でも、なんかそんな決まりなんだろうと納得するしかなかった。


小学生になると低学年でも、幼稚園のときより男女で区別されることが多くなった。いつも男の子はいいなと思っていた。この係りは男の子、この役は男の子。やりたいものなんでもかんでも男の子だった。ただ、小学生だとまだ、体格の差も顕著にはでなかったから、一緒にスポーツすることができた。これはなによりの楽しみだった。もちろん休み時間は男子とサッカーしたり野球したり。一緒に遊ぶ仲間たちは男とか女とか、気にせずに遊んでくれたから、すごく楽だった。だから、友達には恵まれていたと思う。


そんな僕に大きな出来事があった。僕が小学5年生の時に父が家を出て行った。

今じゃ珍しいことじゃないかもしれないけど、当時はまだ周りに離婚している家庭も少なかった。小学生の僕にはなかなか辛い、両親の離婚だった。

僕はそのことをすぐに受け入れることはできなかったし、頭でわかっていても心が追い付いていなかった。だから、友達にも必死で隠していた。いつかわかることだとは思ったけど、このとき僕の口から、友達にこの事は話すことはできなかった。周りに数人両親が離婚した友達がいたけど、それを陰で噂する子がいたのも知っていたから、そんな風には言われたくないという思いがあった。

なんとなく家の中の空気が悪くなっていくのを感じていたし、一番上だから、二人の間に挟まれて辛い想いもした。二人が冷戦状態になってからは、家に帰るのが憂鬱だった。いつか離婚するなら早く離婚すればいいのに。と思っていた。突然、父がいなくなって寂しかったのも、冷戦状態の家庭環境が憂鬱だったのも、どっちも本心だった。

父とは今でも会うし、その頃から好きな時に好きなだけ会ってよかった。母は僕たちから父親という存在を取り上げたりはしなかった。その時すぐには思えなかったけど、徐々に離婚してよかったんだと思えるようになった。

今、それぞれの人生を歩む二人を見ていると、人生を楽しんでいるようにみえるし、必ずしも一緒にいることだけが幸せじゃないと思えた。ただ、今でも一緒だったらどうだったかなと想像することはある。それに、離婚していない家庭に憧れないといえばウソになる。

だから、自分がいつか家族を持つときはものすごく温かい家庭を築きたいという夢ができた。


そんな生活にも慣れて、小学校生活最後の年になった。

僕はこの夏、担任の先生に誘われてサッカーを始めた。そして、この先生に出会ったから、僕は教師を目指そうと思った。何気なく誘われて、なんとなく始めて、それを大学まで続けて、まさか全国3位を経験するとは思わなかった。


このサッカーが楽しくてしょうがなかった。ただ遊んでるだけのサッカーとは違って、小学生でも技術は磨かないといけなかったし、最初はできないことがたくさんあったけど、できるようになる喜びがあった。最初はなにもできない僕に手取り足取り教えてくれるコーチ、チームメイト、嬉しくてしょうがなかった。そしてなにより、チームメイトは全員男子でその中で同じように扱われるのが嬉しかった。一緒に喜んで、ぶつかって、男子の中でプレーできたことが嬉しかった。レギュラーにもなれたし、これからもサッカーを続けようと思えた。僕を誘ってくれたその先生は僕の恩師で、今でも僕の力になってくれる人。


僕はスポーツが好きだったから、学校でも部活に入っていた。もちろん女子しかいないけど、それよりスポーツがやりたかった。とりあえず一番上手くなりたかった。5年生からバスケ部に入って、後輩もできていて、その頃から少しずつ「かっこいい」と言ってくれる後輩がちらほらできた。もちろん嬉しかった。

そして、一年に一回の一大イベント。バレンタイン。

それまでは気にしたこともなかったけど、その年はもらえるかもしれないと期待でウキウキわくわく。自分で期待しちゃう程、僕を慕ってくれる後輩たちがいた。一緒に帰ろうとか校内ですれ違うだけで、喜んでくれていた。そして、なんと人生で初めて10個ももらえた。僕にとってはビックニュースだった。全部後輩からだった。あんなにかっこいいと言ってくれる後輩がいて、今思えばモテ期だったかもしれない。後輩たちが性別をどう見ていたかは別として、かっこいいといってチョコレートをくれたという事実が嬉しかった。


小学生時代はこれといって特別苦悩することはなく、楽しく過ごせたと思う。多少の男女の区別はあったけど、それほど顕著ではなかったし、振る舞いが男子でも、周りもそんなに気にしていなかったと思う。

ただ、この頃から少しずつ体の変化が出始めて、ここからだんだん心と体が追い付かなくなっていって、周りの反応や、男女の区別をさらに感じていくことになる。無邪気になにも考えずにふるまえたのは小学生までだったかもしれない。

そして、中学生になって僕のこの小さな悩みが大きなものになっていき、僕はなにに悩んで、僕が一体なんなのかがわかることになる。

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