幼少期

1ー幼心に


僕の一番古い記憶はひいおじいちゃんの家で一生餅をかついで歩いたこと。

それからグッと記憶は飛んで、4歳くらい。

ただ、その頃の記憶は世間一般の人たちと何一つ変わりない、一般的な家庭の記憶だと思う。

母が台所に立つ後姿の記憶やセキセイインコがベランダに飛んできて飼うようになったとか、家に電話がかかってきてそれを出るのが楽しみだったとか兄弟げんかしたとか。特別変わった記憶もなく幸せに過ごしていた。


幼稚園に入学すると同時に引っ越しをした。5歳にして引っ越しは2回目。

僕はこの時から住居を転々とする運命だったのかもしれない。それは今もかわっていない。

それからの記憶はたくさん残っていて、まだ補助輪をつけて自転車に乗っている頃。その頃から薄々思っていた。

「大きくなったら男の子になれる!立派なものも生えてくる!」と信じていた。

そう。僕はGID。

でも、もちろんこの頃にそんなことわかるはずもなく、誰かに聞けるわけもなく、わからないままだった。これに気づくのはもう少しあとになる。

だから、幼稚園生のころからかっこいいと言われることが嬉しくて、かわいいとは言われないように頑張っていた。服装は、この頃はまだ親が選んだものを着ることばかりだったから、特にこれといって変わっているところはなかったけど、ただ一つだけ、スカートだけは穿かなかった。毎日絶対ズボンだった。幼稚園に行けば、男の子たちと外でばかり遊んでいた。サッカーをしてみたり、追いかけっこしてみたりと女の子たちとおままごとやお人形遊びすることはなかった。でも、唯一女の子たちと遊んだといえば、お遊戯ごっこをするときだった。女の子たちはみんな赤いベストを着ていたけど、一人黒いベストをきて男の子役をやって遊んでいた。友達にもかっこいいと言ってくれる子がいて、とても嬉しかった。


そして、最後に小学校に上がる前の記憶として一番、印象に残っているものがある。

それは、ある日母と買い物行った時のこと。同じ幼稚園の親子とばったり。少し立ち話が始まったわけだけど、そこで母が言っていた

「好きな子もいるみたいだし、今はまだ心配してないかな~」

とういう一言。

その時はなんのことを話しているのか全くわからなかったし、聞こうとも思わなかった。でも、後々ふと思った。母はこの頃から僕がGIDなのかもと思っていたのかなと。今もその言葉の真相は知らないし、母に聞こうとも思ってない。ただ、もしそうだとしたらいろいろ悩んで申し訳なかったなと思っている。


この頃はまだ、はっきりとした悩みもなくて、やりたいように生きたいように好きなようにしていた。なにも考えずにいられるなんてこんな幸せなことはないと思う。でも、ここから僕の苦悩は年を重ねるごとに増していくことになった。

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