7.剣と魔術の神童

  

 大剣の青年がいくら剣を振るってもきりがないようで、森の中から次々と魔物が現れる。

今まで戦闘を楽しんでいるかのように戦っていた彼の表情にも、さすがに疲れが見えてきた。

 

 すると丁度、魔力の補充が済んだのか、魔導士の少女が青年に囁いた。


「準備が整いました」

「オーケー。 俺が離れたらすぐに発動してくれ」


青年はそう言って大きくバク転して戦線離脱すると、少女から少し離れた樹木の枝に飛び移った。

 初対面時の寝ぼけた様子の彼はどこに行ったのか、もしかしたらあれが通常なのかもしれないが、動きに加えて口調も別人のようになっている。



 少女が、杖を頭上で回転させてから地面に突き刺すと、少女の足元に神秘的な魔法陣が広がった。


「...ミスト」


その声と共に、彼女を中心とした周囲一帯に、霧が立ちこめる。

 突然発生した霧に、魔物たちも困惑し、その場で動揺する者もあった。


 杖を握って俯いたままの少女は、魔物が飛び掛かる前にすかさず次の呪文を唱える。


「チェーンライトニング!」


少女の握った杖から電撃が発生し、先ほどの霧を伝って周囲にいた全ての魔物を感電させた。


 それ以降魔物が現れないのを見ると、今ので魔物の殲滅に成功したか、他にいた魔物も怯えて逃げかえったかのどちらかだろう。




 「ジンク! こっちから降りれそうだよ!」


私が崖下の光景に見とれているうちに下へ降りる道を見つけたのか、イルミが少し離れた位置から呼んだ。

 別に我々が下へ降りる必要は特にないのだが、あの戦闘風景を見せられた後で「あいつら凄かったな」と、そのまま帰るわけにもいかない。

あれほどの力を持った者たちなら、是非我がパーティーに引き込みたい。  

それに、彼らを仲間にできれば、前衛二人、後衛二人と、魔王討伐の旅をしていく上で丁度バランスの良いメンバーとなる。



 「おーい! そこの二人!」


崖下から去ろうとしていた二人に駆け寄って私が呼び止めると、振り向いた二人のうち青年が言った。


「あ、さっきのお二人さん」

「...この人達は?」


当然、魔導士の少女はずっと崖下にいたので、私たちのことなど知らない。


「さっき魔物に襲われてる君を、何もできずに崖の上から見てた人達だよ」

「へぇ...」


間違ってはいないが何だか嫌な言い方だ。 

というか、初対面なのにその説明だと印象が悪すぎるだろ。

無関心なのか実は怒っているのかわからないが、説明を聞いた少女は殆ど表情を変えずにこちらを見る。



 「そういえば、さっきから見てると、二人は知り合いなの?」


イルミが天然で助かった。 

ここで空気を変える質問をしてくれなければ重い空気が停滞するところだった。


「ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。 彼女が森で迷ってたところを外まで案内してたんだけど、ちょっと目離した隙にさっきみたいになっちゃっててさ。 だから、これでも今日が初対面なんだよ」


ちょっと目を離しただけであんな事態に巻き込まれるとは、この男がいなければ彼女は今頃どうなっていたことか...。


「ちなみに、俺の名は『トルム・グラキエス』。 ...元戦士団員だ」


ん? この男、何故今言葉に迷った? 

嘘をつくような素振りはなかったが、元戦士団員ということに何か後ろめたいことでもあるのだろうか。 まあ、続きを聞こう。


「で、こっちが...」

「『ルキ・マラキア』です。 見ての通り、見習い魔導士なので、まださっきみたいに守られてばっかですね...」


あれだけの魔物を一層する魔法を使いこなしておいてまだ見習いだと...!? 

魔導士の見習いの基準が高すぎるだけなのだろうか...。


「私はエルフ族の『イルミ』。 狩人として彼と一緒に旅をしてるの」


いや、よく思い返してみれば彼女が使っていた二つの魔法はどちらも初級~中級レベルの比較的簡単な魔法...。 

その組み合わせであのような高威力の技に見せていただけだとすれば、彼女は魔導士として相当な才能があるのでは...


「...ジンク! 聞いてる?」

「えっ、あ、何だ?」

「何だじゃないでしょ!? 次自己紹介あんたの番じゃん」

 「あぁ、すまない。 俺の名は『ジンク・ブレイバ』。 こう見えて、魔王討伐を目指す勇者をやっている者だ。 でも、まだレベルは20代だから、あんまり期待しないでくれ」


すると、今まで澄ました顔をしていた二人もさすがに驚いたのか、微妙ながらも表情を変えた。


「えっ!? 君があの勇者!?」

「...驚きですね。 もっとガチガチに装甲を固めたゴリラみたいな人かと思いましたが...」


ここから、「そこで、俺の仲間に加わってほしい!」などと言うのはさすがに品が無さすぎる。

それでは勇者としての威厳と名声を利用しているだけの偽善者に過ぎない。 

まあ、この私が絶対的な善人、正義であるとは言えないが。

 まずは、できるだけ本人での意志でパーティー加入の決断をしてもらうため、信頼を得ることから始めよう。 

今の我々は二人と魔物の戦いを見ていることしかできなかった口だけ勇者パーティーでしかない。


「もう日が落ちてきている。 とりあえず、店の飲食店にでも行こう。 これも何かの縁だ、俺が奢ろう」


それを聞くと、ルキは目を輝かせて歓喜する。


「本当ですか!? ...でも、嘘だとしたら...」

「大丈夫だよルキ。 もし騙されたって報復の仕方はいくらでもあるんだ」


微笑を浮かべながらもさりげなく恐ろしいことを言う奴だ。 

だが、そんな二人を仲間に引き入れられれば心強いことを願うのは変わらない。


 仲間に加えるための会話の順序を考えながら、軽い談笑をして街へ帰った。


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