5.王の見る目

 

 「いいからそれをよこせっつってんだよ!」

「力ずくでもらってもいいんだぜ?」


路地裏を覗くと、例の少年が柄の悪い男3人に恐喝されていた。 

後ろに回した手には、私が渡した金貨が必死に握られている。


「おいお前ら。 子供一人に3人で寄って集って、恥ずかしくないのか?」

「はぁ? 何だお前?」


私が歩み寄りながら注意すると、男たちは一斉にこちらを見て睨んだ。 


「金貨一枚なんて、真面目に働けば手に入る額だろう」

「俺らにまともな働き先があるように見えるか?」

「...確かに」

「確かにじゃねぇ! 申し訳なさそうにすんな!」


 「...あ? よく見るとお前、中々良い身なりしてんじゃねぇか」


男の一人が私の装備と膨らんだ財布に目をつけ、他の二人に何か伝えているようだった。

 成果の量を考えて、ターゲットを私に移したのだろう。 

丁度いい、こいつらで今の自分の力量を知るとしよう。


「ほう、俺の身ぐるみを剥がしにくるつもりか? いいだろう、3分だけなら付き合ってやるよ」


そう言って煽るような笑みを浮かべると、案の定男たちは怒りを買って殴りかかってきた。


「何だと!? 舐めた真似しやがって...!」


声を荒げて殴りかかる大柄な男の拳を避け、そのまま相手の勢いを利用し、足をかけて体勢を崩させた。 

そして、大柄な男に注目させている内に後ろへ回り込んだ仲間を、そいつの下敷きにさせる。


「おいおい、声をだしてから手だすなんて随分自身があるんだな」


倒れた二人を見下して煽り、再び前に振り返ると最後の一人がナイフを持って飛び掛かってきていた。

恐らく、狙いは腹。 

ここで私は、後退するのではなくむしろ前にでて相手の距離感を乱し、ナイフを押し出そうとする威力を殺す。 

少し体を反らし、目と攻撃が追いついていない男の手からナイフを払った。


 私の後ろへ飛んで行ったナイフと、自分の背後で倒れる仲間二人を見て動揺する男。

勝てない雰囲気を感じ取ったのか、男は急に怯えた表情になって情けなく膝をつく。

 奥で心配そうに見守っていた少年も、今の一部始終を見て私に尊敬と期待の目を向けている。


「すぐに逃げないだけ潔いな。 感心した」


と、言っている隙に下敷きになっていた男が逃げようとしていたので、呼び止める。


「おいそこ! 言った傍から逃げるな! 全員正座!」

「は、はい!」


3人とも相当私に恐れをなしたのか、すぐに言う通りに正座した。 

まるで悪ガキを説教しているような図である。

 怯ええながらこちらをチラチラと伺っている男たちに、一人ずつ指を指して伝える。



 「まず、お前。 確か他の二人に指示を出していたな。 なかなか良い作戦だったが、まだそれぞれの能力が未熟過ぎた。 だが、お前は体格も良い。 土木工事なんかはどうだ、頑張り次第で現場監督にもなれるだろう」

「えっ、お、俺がか...?」


 「次にお前、すぐに私の後ろへ回り込む素早さと、それでもブレない体幹の良さ。 多少腕力も必要になるが、配達員に向いてる」


急に評価されて唖然としている二人は、動揺して瞬きを繰り返しながら顔を見合わせている。

 しかし、ナイフを弾かれたあの男だけは、浮かない表情で目線を下に向けながら不貞腐れているようだった。


「最後にお前、自分は武器がないと何もできないなんて、落ち込んでるのか?」


私の推測がまさに図星だったのか、言葉に反応して顔をあげた。


「その修繕された服とこの自製のナイフを見ればわかる。 お前の謙虚さと器用さを生かすなら、職人になるといい。 いくつか段階を踏む必要があるが、まずは誰かの弟子に付くところからだ」


穏やかな表情で、ナイフと一緒に希望も渡した。 

男は今にも泣き出しそうな表情で、それを受け取る。


「う、嘘だ! そんなの、俺たちを陥れるための嘘に決まってる!」


先ほどから疑いの目で見ていた大柄な男が立ちあがって声を荒げた。

突然来て恐喝を邪魔し、仕事を進めてきた男を信用できないのも無理はない。


「そう見えるか? 今言ったのは比較的簡単に就職できる仕事だ。 嘘だと思うなら自分で試しにいってみな。 上手くいかなかったら後で俺を好きなだけ殴りにくればいい」

「ぐ...覚えてやがれ!」


ありきたりな捨て台詞を残した男に続いて、他の者たちも路地裏から逃げていく。

 最後に、例の少年が今度はしっかりと私にお辞儀をし、路地裏から出ていった。


 見かけによらず、もう何百年も生きているせいだろうか、私にはその少年も、ガラの悪い男たちも、同じように見えていた。


 悪い結果を出した者をただ叱ったり罵倒するのではなく、どこが悪かったのか、それならどうすればいいのかというのを教え、同時に良かった点もさりげなく褒めていく。 

これは私が、戦いで負けた将帥や、失敗を犯した部下にも行ってきた手法だ。

 これにより皆は私に信頼と尊敬の目を向け、成果を出して言葉を貰おうと適度に頑張ってくれる。

行き過ぎると少し洗脳的なやり方にも見えるが、おかげで魔界の景気はよくなったし、私としてもそれは有り難い。

 私は、あの希望へ向かう背中を見るのが大好きだった。 それは、今でも変わらない。



 さて、そろそろイルミも心配している頃だろう。 

そう思って路地裏を出ようとすると、見覚えのある影が立ちはだかった。


 「あっ! やっぱりここにいた! なんか危なそうな人たちが飛び出してったけど、大丈夫だったの?」

「ああ、どうってことない。 道を外れた者を正していただけさ。 さあ、例の森に行くとしよう」



 最初に立てていた目標、レベル上げと力試し、をするため、私たちは街の近くの森へと向かった--

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