ダーティーデュード

 刑務所の面会室、ディアゴスティーノはとある男を待っていた。

「おお~久しぶりじゃねぇか小僧」

 現れたのはジャモニーという老人だった。小柄で痩せていて、肌は赤茶けている。田舎の農夫ともいえる容姿だが、顔には囚人らしい刺青が入っていた。

「久しぶりだな、じいさん」

 ジャモニーは「ふぇっふぇっ」と笑うと、ディアゴスティーノの前に座った。 

 ディアゴスティーノは懐に手を入れる。「こんなんで良かったのかよ……。」

 そう言ってディアゴスティーノが取り出したのは安物の煙草だった。

「高級すぎるやつは口に合わなくってなぁ」

 ジャモニーはありがたそうに小箱を手に取り、さっそく火をつけて煙草を吸い始める。

「で、首尾はどうだった? 順調に終えたか?」ディアゴスティーノは訊ねる。

「それがねぇ」困ったようにジャモニーは煙草を挟んだ指で、短く刈り上げた頭をかく。

「何かトラブルが? ベルトーレの抵抗にあったのか?」

「いや、殺るのは簡単だったよ、後ろから刃物でずぶりだ。食う時、寝る時、糞する時、人間ってのは誰でもいつかは隙ができるもんだからねぇ。……問題はその後さ」

「看守にばれたのか?」

「そんな間抜けじゃないさ。ただ、今年はありが多かったってことが読めなくてなぁ」

「ありっていうのは、あの蟻か?」

「そう、あのありだ。ベルトーレの死体をムショの裏に埋めたのは良いが、ありがたかっちまってなぁ、ベルトーレを埋めた所がへこんじまったんだよぉ」

「それは、それは……。」

 ジャモニーは安物の煙草の煙を口から吐き出しながら笑う。

「おっかしいよなぁ、へへっ人間を埋めた跡が、く、クッキーの……型みてぇによぉ……!」

 ついにジャモニーは天井を仰ぎ、目から涙を流しながらけっけっけっと笑い始めた。

「……。」

 ディアゴスティーノはそんなジャモニーを見ながら、長い刑務所生活というのはここまで人を浮世離れさせてしまうものなのだと思い、すぐにそこから出られた幸運に感謝するのだった。

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