アイーシャ/キャバレーの踊り子

「……あれ、デアちゃんは? 今日は休みだったっけ?」

 カフェの控室に入ったあたしは、開店時間になっても、見知った顔のデアが現れないことに気づいた。

「……アイーシャ、デアのこと聞いてないの?」同僚のアルティナが言う。

「聞いてないって……デアちゃん何かあったの?」


 突然の事だった。ある日から、あたしらの仕事の予定、社交場のお供やお金持ちの夜伽の相手みたいな、大きい仕事がすべてキャンセルになってしまった。会社の社長がロメオさんに変わったのは聞かされていたけれど、ここまで変わるなんて思ってもみなかった。あたしにはキャバレーの仕事しかなくなり、押し出されるように何人かの女の子は別の仕事をするか、女の子によっては仕事すらなくなってしまってた。

 こんな急に生活を変えられたらたまったもんじゃない、あたしは非番の日にロメオさんのところに話をしに行った。

「ちょっとロメオさん、あんまりだよっ」

 事務所のいつもディアゴスティーノさんがいる机の前にはロメオさんが座っていた。その隣には人間の秘書さんが。

「アイーシャ、どうしたんだ突然?」ロメオさんが言った。

「突然ってのはこっちが言いたいよ、分かるでしょ?」

 ロメオさんは秘書さんを見た。秘書さんは小さく首を傾けるだけだった。

「……アイーシャ、ここのトップが俺に変わったのは知ってるな」

「もちろんっ」

「そこで……ビジネスの方針を変えたんだ。新しいこと、金になりそうなことにはとにかく噛んでいく。どれだけ損失を出してもそれ以上の利益を出せばいい、ディエゴのそんなやり方は、トロッコにひたすら大きな荷物をのせていくようなもんなんだ。増やせば増やすほどトロッコは加速していくが、いつか派手に転んで大きな事故が起こる。その前に俺は何とかしようと思ったんだよ。……分かってくれ」

「そんなこと言ったって、いきなり生活を変えられたら、それはそれでこっちは大変だよっ大事故だよっ」

「……事故を起こすならどちらを選択するかだ。確かに俺の方針で、お前たちの生活に変化があるだろう。だが、その前はどうだ? お前たちはディエゴに命令されて、裏でいろいろやってただろう? それがどんな問題を起こすか考えたことあるか?」

「……そんなの、いろいろっていうか……ただ言われた場所に行って、お客さんの話を聞いてるだけだけど……。」

「お前たちは目の前の金や社交界の華やかさばかりに浮かれて気づいていなかっただろうが、ディエゴがやっていたのは、お前たちに危ない橋を渡らせるようなもんだったんだよ。女たちにこれ以上危険は背負わせられない」

「軽く見ないでよ、あたしたちが、自分で何やってたくらい自覚あるしっ」

「じゃあなおさらだ。そろそろ安定した道を、安全な生き方を選ぶ時期だ、アイーシャ」

「そんな……ねぇ、ちょっとだけ待ってよ。もうちょっとだけ、ほんの少しで良いから、これまでの仕事を続けさせてよ」

「……なにかあるのか?」

「えっと、ほら……うち、弟がいっぱいいて仕送りしなきゃいけないし、それに……お母さんには新しい家が買えるかもって言っちゃってて……。」

「お前……。」

「お願いっ、後生だからっ」

「そう言われても、本当に俺はこの手のから手を引いたんだ。アイーシャ、そうなる予定じゃなくて、もう決まったことなんだ」

「そんな……」

「分かってくれ。それに、お前は別にそんな危ない橋を渡らなくても、まだ若いし器量もあるんだから、カフェの給仕でもまだまだいけるだろう?」

「……そりゃ、あたしはいいかもだけど、他の子たちはどうすんの?」

「他の女たちに関しては……何とか他の仕事を見つけてやろうと、今いろいろと相談してるところだよ……。」ロメオさんは秘書さんを見た。

「……いまさら皿洗いでもやれっての?」

「……ないよりはましだ」

「家族がいる子はそれじゃ無理だよ……。食事なんて一日に三回食べられるかどうかになっちゃうし……。」

「……アイーシャ、言ってるだろ、そろそろ安定した道を選ばないといけないって。生活だって、少し前まではそんなもんだったはずだ。フェルプール俺たちはずっと貧乏だ。ここ最近が異常だったんだよ。みんなで浮かれて騒いで、身に余るほどの金が入るようになっただけだ。俺たちは身の丈に合った生活に戻るだけなんだよ」

 あたしは唇をかんだ。その身の丈に合った生活にロメオさんは戻ってないじゃないか。いま座ってるその椅子もこの部屋も、彼には不釣り合いだった。目鼻立ちがすっきりした色男かもしれないけれど、貫禄みたいなのがディアゴスティーノさんと違って全然なかった。

 あたしは事務所を出てると、人づてにディアゴスティーノさんを探し始めた。薬を流してる奴らを探さなきゃで、今では下っ端みたいに働いていたディアゴスティーノさんは、たまたま経営してるカフェに寄っていたからすぐに見つかった。あたしはディアゴスティーノさんに、今のままじゃあ生活がやばいから何とかしてほしいってお願いしたけれど、ディアゴスティーノさんは難しそうな顔をするだけだった。

「……ねぇ、なんとかならないの?」

「いま……うちの社長はロメオだ。少なくとも俺は、ヤクを流してる奴らを見つけ出すまで経営どころか発言権すらねぇ……。」

 ディアゴスティーノさんはとても自信の無い顔をしていた。初めてキャバレーで会った時とは別人みたいだった。そんな彼の隣でサリーンっていう女性が座っていた。うわさに聞いていたディアゴスティーノさんの彼女さん。正直、カフェで一番きれいってわけでもないし、そんなに若くもない。この人のどこが良いんだろう。

「……じゃあ、その人たちを見つけたら、ディアゴスティーノさんは、また社長に戻れるの?」

「社長かどうかはともかく、意見はできるようになるわな」

「……そっかぁ」

 そうか、ディアゴスティーノさんがお手柄を立てれば、またあたしたちの仕事が増えるのか……。

「……おいアイーシャ、妙なこと考えてんじゃないだろうな?」

「え? 妙なこと? な、何言ってんですかぁ?」

 ディアゴスティーノさんはテーブルの上の酒瓶を取ると、杯にお酒を注ぎ始めた。

「アイーシャ、俺がオメェらに求めてるのはじゃねぇ」

 お酒の話? あたしが分からないでいると、ディアゴスティーノさんはさらにお酒を注いで、やがてお酒は杯からあふれ出した。お酒がテーブルにこぼれてから、ディアゴスティーノさんはようやくお酒をテーブルに戻した。

「俺が求めてんのは、これだ」

 ディアゴスティーノさんは「失礼」と言って杯からこぼれたお酒をすすった。

「……どういう意味です?」

「俺が求めてんのはあくまで噂だってことだ」ディアゴスティーノさんはハンカチで口をぬぐった。「オメェらに間者(※スパイ)見てぇな真似はさせねぇ。流れてきた情報を俺に流すんだよ。自分で掴むんじゃねぇんだ。そんなことをやってたら、いずれオメェらの身に危険が及ぶし、俺の仕事も続けられなくなる」

「……けれど、今はそんな状況じゃないじゃん」

「分かってる……。」

「ねぇ、ディアゴスティーノさん、あたし、自分で言うのもなんだけど、結構得意な方だと思うんだよ。だから、もしお仕事をくれたら……」

「アイーシャ、だめだ。オメェにゃ故郷くにに弟とかかあ・・・がいるんだろう。危ねぇ橋は渡らせられねぇ」

「でも……」

 その家族たちの生活が苦しくなるんだから。

「大丈夫だって、心配すんな。俺だってこのまま終わるつもりはねぇ。すぐにでも機会を見つけて取り返すさ。何てったって、俺ぁ四年も臭い飯を食わされてたんだ。忍耐力が他とは違う」

 あたしにとって四年は長いよディアゴスティーノさん、そう言いかけてしまった。

「無茶はしないでよ、あたしは今のままでも十分なんだから」そう言って、サリーンさんがディアゴスティーノさんの手を握った。

「……わかりましたぁ」

 ロメオさんといい、自分が損をしてない人たちは余裕がある。でも、あたしはそういうわけにはいかないんだ。

 あたしが部屋を出ていくときに、ディアゴスティーノさんが「よりによって、ラリアートってのが臭うな……。」と部下の人と話しているのが聞こえた。

 そんな話が出ていて、みんなが大変になってる頃だった。あたしがお店に出勤のために店に入ろうとすると、見慣れない女性が店から出てきてすれ違った。女性は、まるでひどい知らせに心を打ちのめされたみたく、ひどく虚ろな顔をしてた。

「……ねぇアルティナ、あの人なに?」あたしは店に入るなり、扉のすぐ近くにいたアルティナに訊ねる。

「ああ……。」アルティナは気の毒そうな顔をする。「うちで働きたいってさ。でも、マネージャーが断ったんだよ。うちも大所帯になっちまったからね……。」

「へ~、器量は良さそうな人だったのにねぇ」そうは言ったけれど、うちで働くには齢が行き過ぎてるようにも見えた。「それでもああいう顔するもんかな、人生が終わったみたいな顔してたよ?」

「……他の店が潰れて、女の働き口がなくなってんのさ」そこに、前に裸踊りをやったマネージャーがやってきた。

「え? 潰れてるって……どうして?」

 ただでさえ、しわの寄ってるおでこにもう一筋しわを増やしてマネージャーが言う。「突然チームの頭がクライスラーさんからロメオディロンさんに変わった上に、縄張りの一部が別のチームのもんになったんだ。お前らは自分らの生活の事しか興味がないから知らんだろうが、いまランセルじゃあカフェやキャバレーの同業者がてんやわんやしてんだよ」

「新しい人って……誰なの?」あたしは言った。

「お前らは知らんよ、というか俺も知らなかった。ラリアートっていうベルトーレさんとこの奴らしいけど、何だろうな突然、幹部のマクラーレンさんってなら話が分かるんだが……。」

 アルティナがあたしに「知ってる?」と聞いたけど、あたしは首をふった。けれどあたしには聞き覚えがあった、ディアゴスティーノさんがこのあいだ話してた人だ。

 あたしはお店がお休みの日に、前はディアゴスティーノさんの縄張りだったところに足を運んだ。あたしもけっこうを踏んでたから、それっぽいひとたちが出入りするところは勘で分かった。

 そしてふほんいだったけど、あたしはその近くの道端で体を売ってるひとみたく、男の人を物欲しげに見ながら立っていた。待ちはじめて十分もしないであたしは男の人に声をかけられた。自分で言うのもなんだけど、あたしはキャバレーではフェルプールのなかでも人気があったしスタイルもイケてるから、そこらへんの娼婦にくらべたら目立つ方だと思う。けれど、目的はただの男じゃない。

「あっちいってよ」

 あたしにそう言われた男の人は「なんでぇお高く留まりやがって」って、唾を吐きながら去って行った。あたしの心臓がばくばく鳴ってた。

「よぉねぇちゃん、見ねぇ顔だな?」

 声をかけられた方を見ると、そこにいたのはディアゴスティーノさんたちと同じふんいきのひとたちだった。ていうか、顔に傷がある時点で普通じゃなさそう。

「……う、ええ」あたしはいそいで笑顔を作り直す。「前にやってたところの男たちが乱暴だったから、場所を変えようかなって思って。足元見て安くする奴ばっかりだったし」

「へぇ~」

 傷のある人があたしを遠慮なく、舐めまわすように見てくる。あたしはわざとコートをはだけさせて、自慢の体をみせつけてやった。

「お~、いいじゃねぇかぁ、ねぇちゃんいくらだい?」

「一晩1000ジル」あたしは言った。

「せ、1000ジルだとぉっ? お前、そりゃ……」

 あたしはコートを閉じた。「払えないんだったらお断り」

「けっ、ふっかけすぎだろぉが」

「あ~あ、残念。あたし、すっごくうまいんだどなぁ……」

「い、言っとくがなぁ、どれだけ自信があっても1000ジルってのはそうそう……」

「このシマには払える親分さんとかはいないの?」

 強面こわもてのおにいさんは、じろりとあたしを見る。目がしらに涙が溜まりそうだった。

「……ずいぶん大きく出るじゃねぇか」

「……そう?」

 おにいさんたちは顔を見合わせてうなずくと、あたしに「ついて来い」と言った。

 あたしが連れてこられたのは酒場だった。とても空気が悪い酒場で、どんな酒場でもその土地なりの明るさがあるけれど、そこは普通のお客さんが居なくて、本当に悪い人たちのたまり場みたいになっていた。空気はたばこで煙たくて、トイレの匂いなんかがここまで漂ってきてた。前はディアゴスティーノさんのお店だった時はこんな風じゃなかった。場所を綺麗にするののは時間がかかるけど、汚すのは簡単なんだね。

 あたしはさらに奥、酒場の片隅のカウンターに案内されたんだけど、そこで男の人がひとりで飲んでいた。

「……ラリアートさん」

 強面のおにいさんが話しかけると、そのラリアートって人は顔を上げた。面長で鼻が大きくて、どこかぼぉっとしてる感じの人だった。緩やかウェーブのかかった黒髪も、寝ぐせをそのままにしてるって思われそう。

「……なんだ?」ラリアートはあたしを見ると顔をしかめた。目が執念深いっていうか、疑り深い感じだった。

「いやね、この女、この界隈で仕事はじめたらしいんですけれど、中々の上玉なんで、まずはリーダーに紹介しようかと……。」

 ラリアートは立ち上がると、あたしの前に立った。あたしは嫌な予感がした。女を前にしてこんな険しい顔をする人が、女にお金を出すわけがないと思った。

「……いくらだ?」ラリアートは言った。

「えっと……」

「1000ジルらしいですぜっ」

 強面のおにいさんが言うと、ラリアートはあたしを睨んだ。

 あたしは「悪い?」って感じだ肩をすくめる。もしかしたら、今日はもうこれで出直さなきゃあいけないかもしれない。そう思ってたけれど、

「……後で俺の部屋に通せ」とラリアートは不機嫌な顔をしていった。不機嫌っていうか、これがこの人の素の表情なのかもしれない。

「は、はい……。」

 部下のおにいさんにここで待つようにと席を案内されて、あたしはしばらくちびちびお酒を飲んでいた。飲んでるあいだ、あたしがもうラリアートさんの所に行くってわかってたみたいだから、誰も声をかけてこなかった。たぶん、あの人を怖がってるっていうより、関わりたくないんだろうなって思った。

「ついてこい」

 あたしがお店の階段を上って二階に行くと、そこは物置みたいな部屋で、その奥のベッドの上に、上着をもう脱いでるラリアートがいた。筋肉がすごかったけれど、少し奇妙な感じの肉のつき方だった。何ていうか、トカゲみたいだった。

 ラリアートは恨めしそうな目であたしの方を見ていた。隣にいた部下が小さな声で「すんませんっ」て謝って部屋を出ていく。どうも人が嫌いなんだろうな。

 あたしはディアゴスティーノさんに買ってもらったミンクの毛皮のコートを脱ぎながら、ラリアートに近づいた。あたしの胸元を見るとラリアートは目をそらす。そしてあたしがベッドの隣に座ると、ラリアートは胸をちらちらと見てきた。大丈夫だろうか、この人もしかして童貞なんじゃ?

「……全部脱げ」呼吸を荒くしてラリアートは言った。興奮してるのとはまた違う荒さだった。ますます不気味だった。

 あたしは何も言わずに服を脱ぐ。脱いでいる間も、ラリアートの視線をちらちら感じていた。

 ドレスを脱ぎ終わったあたしの体をラリアートはただ見ていた。そして肩を押してベッドに寝かせると、ラリアートはあたしの両足を広げズボンを脱ぎ始めた。……いきなり始める気?

 戸惑うのもつかの間、ラリアートは本当にいきなり始めた。ふんいきづくりも何もあったもんじゃなかった。しかも、せめてムードを出そうとあたしが声を出したら、ラリアートは「しゃべるな」とそれもやめさせた。まるで、いやいややってるみたいだった。

 ラリアートは眉間にしわを寄せながら腰を動かして、最後に小さく呻いてを終える。もうこれなら、自分の手で済ませた方が速かったんじゃないだろうか。

 息を切らしたラリアートは、あたしの上にたおれ込んで、胸の中に顔をうずめる。重いからどいてほしかったけれど、あたしは子どもにするみたいに彼の頭をなでてあげた。

「……ん」

 胸のもみ方が乱暴であたしは声を出した。それでもラリアートは胸を触り続ける。そうしてると、彼の股間のものがまた硬くなり始めていた。感心する回復力だった。

 そしてそのまま二回戦、やっぱりただ黙ってるだけで、ぜんぜん楽しくなさそうだった。

 トカゲみたいな筋肉が光るくらいに汗をかいて、ラリアートはようやく満足したようで、あたしの横に体を預けた。そんなラリアートの唇に、あたしは軽くキスをする。ラリアートがおどろいてあたしを見た。あたしのキスで何を思ったのか、そのあとラリアートはあたしの顔を観察するように眺め続けた。あたしは彼の表情の意図が読めず、怖いと思いつつも彼の顔をうるませた瞳で見ていた。ラリアートがあたしの顔に手をあて、頬を、そして耳をなでてきた。あたしは嬉しそうな顔をしてそれを受け入れた。どうやら彼の心は少し動いてるらしい。

 あたしがラリアートの足の内側を優しくなでると彼の体が反応した。そして彼の胸に唇をはわせ小刻みにキスをくり返し、彼の下腹部をマッサージする。

「……もう一回できそうだね?」

 三回目が終わって、ラリアートがベッドから起き上がり服を着ようとすると、あたしも起き上がって彼のためにズボンを、そしてシャツを着せたあげた。こういうことをやってもらったことがないみたいで、ラリアートはおどろいていた。一番上のボタンをとめてあげると、あたしはまた彼の唇に軽いキスをする。キスをした時の彼の表情の変化で、あたしは手ごたえを感じた。

 支度を済ませ、ラリアートの部下の人からお金をもらって店を出ると、お店の前には馬車が待っていた。ラリアートが用意したらしい。部下の人から「次はいつ来れる?」と訊かれて、あたしは作戦のひとつが成功したことを確信した。もちろん、そんなことは顔に少しも出さなかったけれど。

 それから一週間もしないあいだに、あたしは三回ラリアートに呼び出された。正確には、あたしが足を運んだら必ず彼のところに連れていかれてたんだけれど。けれど、会えば会うほどラリアートのことが分かるようになるどころか、ますます不気味になっていった。

 まず、ラリアートはぜったいに笑わない。あたしに心を開いたらしいけれど、心の開き方が他とは違う。あたしをますます舐めまわすように見たり、より体を乱暴にいじってきたりする。しんどかったのは、なぜかあたしの胸の中で泣いたりすることだ。涙の理由をきいても、怖い顔をして答えてくれないどころか不機嫌な顔になる。はやく用事を済ませてこんなところから逃げ出したかったけれど、無口なラリアートはなかなかすきを見せてくれない。ろくに会話ができないし、ベッド以外の所にあたしを連れて行こうとしない。

 それでもかならずどこかでしっぽを出すはずなんだ。あたしにはディアゴスティーノさんの所でつちかったノウハウがある。そして、ディアゴスティーノさんにもう一度社長に返り咲いてもらわないと。

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