ふたつめの親切

 私は資料が山積みにされている部屋で、ロッキードに関するものを見せてもらった。そこには彼の悪行の数々が記されてあった。戦時中の行為はもちろん、戦後に紛争地域で暴れまわったこと、さらに逮捕されることになった一般人の殺害。どうやら、故郷で一応の堅気の商人たちの縄張り争いに加担し、その際に相手方の頭目を殺害してしまったらしい。相手はフェルプールの男という事だった。そして、どこを探してもクロックの名は見当たらなかった。渦中にいたはずなのに書かれていない。それが、この事件の裏を物語っているような気がした。

 私が資料に目を通していると、また別の職員が私を所長室に来るように告げてきた。なぜ毎回、私の対応をする人間が変わるのだろうか。

 所長室に戻ると、彼女は満足げな笑顔で部屋に入ってきた私を眺めていた。彼女の化粧並みに厚く塗られた笑顔だ。

「良いしらせが入ったわ。ロッキードの居場所が分かりそうよ」

 そして、声も化粧で上塗りされていた。

「それはそれは」

「……興味がないの?」

「いえ、そうじゃありません。しかし、あなた方が奴の居場所を掴んでいるのなら、後はあなた方の仕事でしょう」

「だって……貴女は奴を……。」

「申し訳ありませんが、役人が直に追いかけている賞金首を、役人に付き添って追いかけるような事はありません。訓練して武装した役人が多勢で歯が立たないような相手を、私ひとりでさっそうと片付けるなんてことは出来やしないのです。そんなことが起こりるのは吟遊詩人の歌の中だけですよ。役人が本腰を上げた時点で、請負人レンジャーの仕事は終わっているのです」

「……そうとも限らないわよ」

「どういうことです?」

「さっき説明したでしょう? 兵士をロッキードにやられてしまって、ベクテルから応援を頼んでると。奴の居場所はつかんだのだけれど、今ここには追える人間が居ないのよ。そこで提案なんだけれど、奴の居場所の情報を教えてあげるから、貴女が奴を仕留めてくれないかしら。どう? 悪い話じゃないでしょう? もし、貴女が無事に仕事を終えたら、うちの専属のレンジャーとして取り立てても良くってよ? 想像できるかしら? 辺境とはいえ、ベクテルが公式に認めたレンジャーになれるのよ?」

「それはそれは」

 権力の側にいる人間は、人を権力の威光にあずからせてやれば喜ぶものだと、疑問も持たずに信じているらしい。

「それと……。」所長は言った。「アイツに届いた手紙を調べたところ、末の娘が結婚したらしいの。きっとその報せを受けて、故郷が恋しくなったんじゃないかしら?」

「……素晴らしい手がかりです」

 概して、人が何のゆかりもない人間に親切をするのは気まぐれからだ。だが、ふたつめからは意図が見え隠れする。背後に張り巡らされた無数の糸、どうやら私の仕事は奴、ロッキード・バルカを倒すことではなく、それにからめとられないよう用心することのようだった。


 今回の件をふり返るに、すべての人間が計画を持っていた。そしてその計画が成功するものと信じていた。自分の手が自分の血で汚れるのを見るまでは。

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