旅は道連れ
翌朝、旅籠屋の店主の報告で、川の水が渡れるくらいに引いたことを教えられた。私はさっそくロッキードにそれを伝えに彼の部屋に行った。
「……ロッキード、私だ」そう言って、私は部屋をノックした。
ドアの向こうから声がした。「ん、んあああ……。」
「入るぞ」
部屋に入ると、ロッキードは床に毛布を敷いて寝ていた。緑色の岩が部屋の真ん中にあるみたいだった。本人曰く、ベッドで寝ないのは自重でベッドを壊してしまうかもしれないということだった。
「店主から報告があってな。川の水が引いたそうだ」
「……そうか」
「起き上がれないのか? もしかして飲み過ぎたのかい?」
「いや……。」
ロッキードは私に顔を向けると、不敵に笑った。
「いま俺は寝返りをうてん。意味は分かるな?」
「……分かった」
私は自分は出発する準備をしておくことを伝え、部屋を出ていった。
しかし、部屋を出てすぐに、ロッキードの部屋から物音が倒れる音が聞こえた。
「……ロッキード?」
部屋をのぞくと、そこには四つん這いになって苦しむロッキードの姿があった。
「ロッキード、大丈夫か? お前さん、本当に飲み過ぎたわけじゃあるまい?」
「む、むぅ……大丈夫だ」
そう言ってロッキードは立ち上がったが、その際に右足をかばうような仕草をした。聞いていた通りだった。
ロッキードはリアルトラズの刑務所に収監されていた時代、所長のあの女から、他の囚人ともめごとを起こしたという名目で、懲罰として右足首をハンマーで砕かれているのだ。一応、怪我は治ったらしいが、足首を砕かれて完全に元に戻るわけがない。歩くたびに痛みが彼を襲っているはずだ。しかし、そんな右足の故障を抱えたうえで、あんな大立ち回りを繰り広げたというのだから、神経が図太いのか根性が図抜けているのか。
「昔から……朝が苦手なんだ……。」と、よろけるロッキードは
「……そうか」
「後で行く。先に用意を済ませておいてくれ」
私たちは一緒に旅籠屋を出発した。外は風こそは寒かったものの、陽の光は体を温めるには十分だった。春が芽生えてきていた。別々に旅をしても良かったはずのふたりだったが、私は彼に用があり、なぜだかロッキードも私に用があるようだった。
「……何か私に用事があるのか?」一緒に川を越えながら私は訊ねた。
「うむ……それが……。」
「何だよ、はっきり言えばいい」
「……すまんが、少し金を貸してくれんか」
「……何だって?」
私はロッキードを見る。ロッキードは濡れた子犬のような瞳で私を見ていた。垂れた大きな眼がより哀愁をそそる。
私はすべてを理解した。昨夜、大きな口で大口をたたいていたこの男は、本当に有り金を使い果たしていたのだ。
「……あきれたやつだな」
ロッキードは目をそらした。
「お前さん、昨夜言ってたよな? 明日生きるかどうか分からないとか。ちょうどいい、今日がお前さんの命日だ。今日を先行投資で売っぱらたんだよ、お前さん」私は川を指し示した。「川に身を投げてこい」
「そんなつれないことを言うな、俺とお前の仲じゃないか」
「私とお前さんの仲だって?」
「ああそうだ、命を助けてやった」
そう言われると弱い。私は一夜の情事を武器に使う女ではないが、命の恩人となれば話は別だ。
「……ああくそっ、分かったよ、お前さんが正しい。次の路銀ができるまでお前さんに付き添うことにしよう」
「助かる。しかし、そんなに心配する必要はない。別に
そう言って、ロッキードは腕を曲げて力こぶを作った。私の頭ほどはあろうかという、バカげたサイズの肉の塊だった。
「……そうかね」
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