戦いの幕引き
それから間もなくして、ケリーの率いる役人の一団がイリアに到着した。
「……どういうことなの?」
軍隊の衝突の後のような有様を見て、ケリーだけでなく役人たち全員が驚愕していた。
「もう少しお前さんたちの到着が早かったら、ここまでにぎやかなことにはならなかったんだが」
「私が何のために王都に引き返したと?」
「さぁ、すみれの花でも摘むためかな?」
ケリーはクロウをにらんだ。
「悪かった。知ってるよ、今がすみれの季節じゃないことくらい」
「……私たちの到着を待てば、ここまでの殺生をする必要はなかったはずよ」
「その間に罪のない女の何人かが、侮辱されたうえ死を迎えてただろう。まさか、お前さんまでが、女の侮辱などたいしたことじゃあないなどと言うまいな」
「そういうことじゃあないわ。そのために何人死んだかを聞いてるの。私は役人よ。法の下、平等に判断する必要があるの。貴女を放っておくことはできないわ」
「忘れてないかい。私はお前さんの命の恩人なんだぜ?」
クロウは、ホートンズがケリーを始末するつもりだった場所で待ち構え、ケリーに襲いかかった賊を切り伏せていた。賊と共にケリーに刃を向けたホートンズとその仲間も、やはりクロウに斬られていた。
「……貴女を重要参考人として話を伺わせてもらいます」
「この世に慈悲はないのか」
「この光景を前にしてそれを言うの?」
ケリーは血に染まった大地を指さした。
「……ないだろうな。この倍の血と涙が、暗闇に紛れて消えていった。だから叫ばなければならない女たちがいたんだ。お前さんたちの耳に届くまで」
「……届いた声なら、無視はしないわ」
「なら、せめて届くところにいてくれ」
しばらくケリーは何も言わなかった。クロウの目の前にいながら、目を反らしていた。やがて部下に指示を請われたので、ケリーはその部下にクロウを荷馬車に乗せるよう命じた。
「……ケリー」馬車に乗り込んだクロウが言った。「言い過ぎた。命のやり取りの後で昂ってたんだろう。後悔する前に謝っておくよ。お前さんは彼女たちの最後の希望だった。それだけは確かだ」
「いいえ、貴女の言うように遅すぎたわ。こうならないために、私たちはいるべきなのに……。」
「気に病むことはない。お前さんは私が知る中で、五本の指に入る良い役人だよ」
「どうせ五番目って意味でしょ?」ケリーは自嘲気味に言った。
「とんでもない、残り四人はこれから決めるんだ」
それにケリーは力なく笑ってこたえた。
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