第6話 これは奇妙な光景
「な……」
アテナが指示した通りの方向に、王都はあった。
それでも俺が驚愕するしかなかったのは、その構成に原因がある。
「と、東京かよ……」
「なんですの? そのトウキョウっていうのは」
「あ、いや」
この世界には存在しないであろう単語を、俺は直ぐに訂正した。
ともあれ、目の前に広がっている光景は地球の大都市そのものである。挙句の果てには車まで走っていて、ファンタジーのファの字もない。
「それでは、タクシーでも拾いましょう。中央まで歩きっぱなしじゃ疲れますから」
「あ、ああ」
驚きを消せないまま、俺達はタクシー乗り場へと向かっていく。
近くには駅らしき建物があった。記されている駅名は、トロイア南口。線路は外周に沿う形で伸びていて、他に東と西、北の駅があることを連想させた。
「……トロイア?」
聞き覚えがありすぎる国の名前に、俺はまたもや疑問を浮かべた。
アンドロマケは俺の独り言に気付かなかったようで、 勝手にタクシーを確保している。……あれ? 俺、こっちのお金持ってないぞ? 命を助けられたばかりか、今度は
「アテナ様、アテナ様、こっちのお金くださいよ」
『はあ? 給料日はまだ半月も先だぞ。自腹でどうにかしろ』
「じゃ、じゃあせめて両替したください!」
『ふむ、いいだろう。私の世界遺産講座を受けてから――』
よし通信遮断。
ふう、これで一安心だ。長ったらしい話に付き合うぐらいなら、一回ぐらい女の紐になってやるよ、ちくしょう。
アンドロマケがタクシーに乗り込む一方、運転手らしき男は彼女に平身低頭している。どうも王女として、それなりに顔は知れ渡っているようだ。
「というか、護衛なしで外に来たのか、あいつ」
俺の知っているアンドロマケでは、まず有り得ない。
それとも、意外にエネルギッシュな女性だったんだろうか? 性格の方については、俺も知りつくしているとは言えないわけだし。
「――まったく、嫌な偶然があったもんだ」
今は無意味な記憶を、俺は頭の片隅にしまう。
アンドロマケが座る後部座席に乗り込むと、タクシーは直ぐに出発した。
正午の日差しが降り注ぐ中、王都は活気に満ちている。歩道を大勢の民が歩き、車道は多数の車が走っていた。
タクシーの他、バスに軽乗用車などなど。小型のトラックだって走っている。
「な、何なんだ、この町……」
今まで派遣された異世界の中で、こんな町は見たことがない。
「何って、ブリアモス王が統べる王都・トロイアですわ。名前ぐらいは聞いたことあるでしょう?」
「いやまあ、あるとい言えばあるけどさ……」
何千年前の話だと思う?
そもそも俺が知っているトロイアは、古代の都市だ。車はもちろん、ビルなんて高層建築物があるわけがない。
……まあ町の名前を、偶然と割り切れないのも事実だが。
だって王の名前まで、俺が知ってるやつだし。
「そ、そのブリアモス王は、老練の王か?」
「あら、ご存知でしたか。アナタが言った通り、私の父であるブリアモス王は今年で60です。早く弟に王位を渡して欲しいのですが、まだまだ現役だと聞かなくて」
「――弟?」
どういうことだ? 義理ならまだしも、アンドロマケに血の繋がった弟はいない筈だが。
しかし彼女は、嘘や冗談を言ったわけではないらしい。これといって表情を変えないまま、身内の話を続けていく。
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