引き出しの中のタイムマシン

深夜太陽男【シンヤラーメン】

第1話

 僕は引き出しの中にタイムマシンを持っている。と言っても某国民的人気漫画のような未来的機械ではない。それは過去にしかいけないし、タイムマシンと呼ぶには大げさかもしれないただの『記録』でしかない。

 この机は小学生のときから愛用しているものである。引き出しの中にはかつて収集していた玩具から学習道具がまだ残っていたりするのだ。そして、毎日分ではないが自分の半生を綴った日記帳も収められている。

 読み返せば当時の光景を鮮明に思い出せた。遊びほうけていた小学生時代から思春期特有の社会生活に反抗していた中学生、そしてようやく将来について真剣に考え不安しかなかった高校生、大事な人たちと出会えかけがえのない時間を過ごせた大学生、そして厳しさを学びながら大人としての自覚を深めていく社会人。妻と子供の写真も同封してある。懐かしさに浸り、自分自身というものを取り戻す。悩みや不安があればこうやって『タイムマシン』を使い過去を反芻するのが日課になっていた。

 さっきまでの焦りはなく、気持ちは落ち着いていった。過去の自分に恥じぬよう今を生きるのだ。選択は決まっている。真人間になるのだ。僕は決心して自室を出て、リビングに向かう。

 どうしてこうなったのだろう。

 やはりそこには妻と子供の死体があった。床の血だまりと自分の手が赤く染まっていること、それだけで事実は明らかだ。衝動的かもしれないが些細なことの積み重ねだったのかもしれない。原因はどうあれ結果は変わらない。それでもまた恐怖がやってくる。足元から自分の世界が崩壊していくのだ。

 さっきまで僕は幸せな時間の中にいた。この現実は受け入れられない。そうして僕はまた『タイムマシン』に乗り込むのだ。ここに記さない限り、現状は現実とならないのだから。何度も繰り返す。他人に干渉されない限り、僕は年をとらないままの人生を歩むのだ。

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引き出しの中のタイムマシン 深夜太陽男【シンヤラーメン】 @anroku

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