第1778話:フエー・リブッツ~凄惨な過去~

「リブッツ村の出身、フエーです」

「リブッツ村って確か……」

「ああ、ご存じでしたか。私はあまり気にしていませんが、あまり話題に出さない方がいいかもしれないですよ」

「あ、すみません。無神経でした」

「いえ、私は大丈夫ですから」

 というやり取りもかれこれ何回目だろうか。

 自己紹介をすると地元で昔あった凄惨な事件を想起する人が多いらしく、このように無神経に話題に出す人も少なくない。

 その度に私はこうやって自分は気にしないが、話題に出すのはやめた方が良いということを言っている。

 相手の無神経さに対するフォローではなく、本当に気にしているわけではない。

 ただ、話題に挙げられたくはないだけだ。

 それを気にしているというのではないかと言われるかもしれないが、気にしているわけではない。本当だ。

 ただ、私がその話のことを何にも知らないから、話題に出されても困るというだけの話なんだ。

 会う人会う人みんなが私の出身の村で何かがあったという反応、話はするのだが私にはまったくと言っていいほどの心当たりがなく、かといって聞いてみると具体的なことは言うのも憚られるとばかりに誰も語ろうとはしない。

 だから、誰もかれもが詳細は語らないままに心配だの気持ちだのを向けてくると何も知らない私としては反応に困ってしまう。

 それこそ、話題に挙げてもらいたくない話なんだ。

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