第1539話:シラ・フツラ~無かったことに~

「今は無かったことにしてくれ」

 取り返しのつかないような失言をしてしまい、慌てて訂正を申し出る。

「わかった。が、何をだ?」

「何をって……」

 もしかして今言ったこと、聞こえて無かったのか?

 それならば、今そうやって確認しようとするのは藪蛇になるというものではないか?

「もしかして聞いてなかったか?」

「さぁ、何のことやら」

 おお、本当に聞いてなかったのかもしれない。

 なら安心か……

 ……いや、聞いていたが聞いていなかった振りをしているだけかもしれない。

 ちゃんとさっきの言葉を聞いていなかったのかどうかと確認しなければ……

「あのさ、もう一度言う、もう一度言うが言った後に忘れてくれ」

「なら最初から言わないでくれよ、言うのはいいけど、その後に忘れてくれって言うのは難度が高すぎる」

「それもそうか……」

 じゃあどうする?

 なにかうまいことカマをかけるか?

 さっきのを聞いたことが分かる発言、なんだ?

 ううん、思いつかない。

 いや、まて。

 あの失言だ、聞いていたら怒らないはずがない。

 いや、こいつは心が広い。

 すぐになかったことにしてくれと頼んでそれで怒らずにいてくれるだけか?

 ええいもうどうにでもなれ。

「さっき言った失言のことだけど」

 そこまで言って口を押さえられた。

「それは、無かったことだろう?」

 底に続けようとした言葉を忘れてしまった。

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