第1411話:ヒグリアス・シャルロ~処刑~

「ギロチンをご存じかな?」

 街の中央にある広場で休んでいると少し背の高い女性に話しかけられた。

「なんですか? それ」

「ギロチンというのは、鉄の刃をレールに沿わせ自由落下させた勢いで下に固定した人間の頸を落とすという処刑具のことさ」

「首を」

「ああ、一瞬で頸を落とせるから苦しませることなく人道的な処刑具とされたんだ」

 彼女は話をしながらしきりに首をさする。

「人道的なんですか、処刑なのに」

「何らかの理由で世から取り除かなくえてはいけなくなった人をできるだけ苦しむことなくという点ではね。悪人ではなく、いや、悪人だとしても、その最後に苦痛などは無い方がいい。痛みと苦痛で獣のように呻きながら死ぬよりは、ストンと終わらせてやることこそが人道的というものさ」

「なるほど、もしかしてなのですが、あなたはギロチンで……?」

「ん、ああ。私はギロチンで数多くの処刑を行ってきた」

「あ、そっちですか」

「処刑された側だと思ったかい?」

「ええまぁ」

「まぁ似たようなことにはなったけどね。私はギロチン台の上で数多くの処刑を行ってきた。そして、最後にはギロチン台の上で死ぬことになった」

「やはり処刑されたのでは?」

「いや、受刑者が抵抗した。今思えばあれは怪物だったな……、信じられるかい? ギロチンの刃が落ちてもそれを首で受け止めて枷を固定された状態で砕いたんだよ? 私が見たのはそこまで、あと覚えてるのは直後に走った頸の外れる感触。痛みは無かった。意趣返しのつもりかは知らないが、なかなかに人道的な処刑だったよ」

「はぁ……なんでいきなりそんな話を?」

「ただ聞いてもらいたかっただけさ、こういう広い広場に来るとどうしても思い出してしまうから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る