第1410話:シレビオ・リュウデ~翻訳不可能~

「これ、なんて書いてあるかわかるか……?」

「ん、どこでみつけてきたんだいこんなもの、翻訳が不可能に近い言語の文献なんて持ってくるんじゃないよ」

「そんなに難解な言語なのか? 確かに見た感じ文字の種類はめちゃくちゃ多そうだけどよ、お前なら何でも読めると思ってたんだが」

 開いたページには同じ文字に見える文字が一組も存在していないが、文字数が膨大な言語というのはたまにあるものだ。

「理論上ありとあらゆる言語を習得していると言っても過言ではないがね、だからこそこの言語のことを知っているし、翻訳が不可能なことも知っているんだ」

「というと?」

「この言語を説明しきる自信はないんだが……あまりにも常識、私達の言葉や文字というものの理解からかけ離れたものだからね。伝わる要素だけ選んで言うと、同じ文字はこの言語に存在しないんだ」

「いやいや、そりゃあそうだろ。普通同じ文字は一つの言語の中に出てくるもんじゃないだろ、たまに形が似てるとかはあるけどさ」

「いや、そうじゃなくてだな、この言語で記されたすべての文章において、文字の重複は無いんだ」

「なんだって?」

 ちょっと待てちょっと待て、理解が追い付かないぞ。

 全ての文章中に文字の重複が無いって、それは言語としてどうなんだ。

「言っただろう? 翻訳できる言語じゃないって。この文章を読み解くには文字列の端を見つけないとダメなのさ、この本の始まりのことじゃなくて、どこかにある端だ。なんでもこの文章を書いているのは一人の人間で、彼が文章を順に手繰ると読める仕組みというのをくみ上げてずっと書いているらしい」

「意味が分からねぇ」

「だろうね、僕もこの話を昔聞いたときは頭を抱えたからね。ちなみに内容は教えてもらえなかったがとても素晴らしい文章で、かの世界では幾人かは文字列の端から順に読み続けているらしいよ。まぁもう書き手がこっちでも死んでしまっていて、記された本や文書も散逸してしまっているから、新しく最初から最後まで読まれることは二度とないだろうという話だけど」

「これを集めないといけないというわけか……、ちなみに何冊ぐらいあるんだ?」

「さぁ? 一説では生まれてすぐ書き始めて死ぬまで書いていたらしいよ。半ば植物の人種が主な世界だから何百年か、それがあの世界とこの世界で二回分、二つの世界にまたがって存在しているわけだから……、万世の図書館でもすべてを集めきれるかどうか……」

 無理じゃないかそんなもの……

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