第1371話:シャガ・アラタ~封印~
「最後に外へ出たのはいつだったっけ」
「前回は3年ぐらい前だ」
梯子を上りながら会話をする。
会話、いや、彼にとってはただの確認のための発話とそれに対する応答か。
一度でも彼と会話したことがあったか、たぶん無い。
最初のころは会話をしたことがあったように思えたけどただ彼のことを知らなかっただけだ。
今も何を知っているということはないが、彼が音声を解した情報のやり取りに求めているのが自身の確認だけであり、他人との干渉ではないということがわかってからは、誰も彼との会話が成立していると考えることはなくなった。
それが如何に脅威なのかを口頭で伝えてもヒテギくんの理解は得られないだろう。
なぜ封印されていたのかを気にしている様子だが、
彼が情報伝達の場にいるだけで全てが滞る、そういう感覚は身をもって体験してもらうしかない。
「よし、無事地上に到着」
まずは私が、次いでヒテギくん、そして彼。
そして彼は地上に出るなりさっと私たちを無視して行ってしまう。
「止めなくていいんですか?」
ヒテギ君が慌てて聞いてくる。
「いい、いつも同じだから彼もやることはわかってるしな。報告だけ行くぞ」
そうして去って行く彼を見送ることなく、上司の元へ彼を呼んだことを報告した。
「あ~、なんでまたこの担当に……」
「僕も一緒ですから、頑張りましょう」
あれからしばらく経ち、状況は安定したので彼を再封印する任務が下された。
正直、嫌だ……!
解放する時も嫌だったが、封印するときは本当に嫌だ……
彼は事実を伝えれば抵抗することなく地下に戻ってくれるからやることは楽で単純、彼に声をかけて地下に潜って扉を開け閉めして地上に戻ってくるだけの任務といっても過言ではないが、彼と言葉を交わすのが嫌だ。
「ヒテギ君、君に彼とのやり取りを任せていいかな」
地下の先導はするからと、彼を説得して私の負担になるところを代わってもらうことにした。
ヒテギ君にも彼のことを知ってもらういい機会だしな……。
ヒテギ君が大丈夫なら地下の道も覚えてもらって次回からはヒテギ君の役割にしてもらってもいいかもしれない。
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