第1309話:フアリ・フェイダ~根城の廃工場~

「よぉ、お帰り。そいつが見つけたって言う新入りか?」

 手下の一人が有望やつを連れてくるというから根城で待っていた。

 なかなかひねくれてそうな顔をしているな……。

「そうです、スクルスといいます。スクルス、彼がボスですよ」

「……聞きたいことがあるんですが」

「なんだ、何でも聞いてくれ」

「ここ、廃工場ですよね? 根城の廃工場へ案内してくれるって聞いてきたんですけど」

「そうだ」

 何でそんなことを気にするのだろうか。

「それなのに、やけに綺麗じゃないですか? 掃除が行き届いてるって意味じゃなくて、設備が現役で稼働してそうっていう意味で」

「そういえば……、私も掃除はしていますがここまで念入りにはしていません。磨きはしても注油などは……」

 む……、そこに気づかれてしまうとは……

「悪党が根城にする廃工場ってもっと、設備は撤去されてたり、サビだらけだったりすると思ってたんだけど、ここはそうじゃないんですね」

「それはイメージの中だけさ、あんまり汚いところを根城にしたくはないから。徹底的に掃除したんだ……」

 本当は別に理由があるのだけど、それがバレるとさすがにまずい。

「えぇ! ボスがここまで掃除していたんですか? 言ってくれたら私が全て綺麗にしますのに……」

「あ、いやいんだ、機材の掃除は契約に入ってないから……」

「契約?」

「あ、」しまった。

「私は別に何かの契約をしてボスに従っているわけではなかったと思いますが……、何か隠していらっしゃる?」

「いや、そういうわけではなくてだな……」

 言えない……、手ごろな廃工場が見つからなくて現役で稼働している工場のあんまり人が来ない区画を間借りさせてもらってるだけだなんてことは……言えない……

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