第1238話:チュウゴ=カロエノ~退魔の魔~

 この世には魔の者が多すぎる。

 元退魔の士としては、見過ごせない気分になるのだが、悪さをするでもないし、ただ暮らしているだけなので、最初の頃は身構えるなりすることが多かったが最近は普通に接することができるようになってきた。

 初期の頃にとりあえず不安であるからと手元に退魔の武具を一揃えしてあるにはあるのだけど一度も使用していない。

 彼らだって話してみれば価値観に違いはあれど、自らの善悪に従うだけ。

 それが大多数の害になるようでなければ、特に滅するようなものではない。


 そう思い、平和な日常を楽しんでいると

「あ、あんたは!?」

 唐突に不躾な指差しを受けて足を止める。

「どなたでしたっけ?」

 魔の者だ、しかしどこかで会ったことがあっただろうか?

「数えること二十と七年の前、この傷に見覚えがないとは言わせねぇぞ!」

「ああ、私が討った魔の者でしたか。すみません、全て同じようなやり方でやっているので傷で誰かを判別することはできないんですよ。というか、この世界に来たときに生前の傷は全て失われるはずでは?」

 生まれ直しているのだから死因になった傷が残ることはなさそうだ。

「この傷は忘れぬようにと自分で付けた」

「なるほど、死しても怨みを忘れぬということですね、立派な心がけだと思います。して、何用で? 仕返しでしょうか、受けてたちますよ」

 こうしてこちらに立ち向かってくるということは、敵意のある魔の者でしょうし、殺さなくてもこらしめるぐらいならやってもいいでしょう。

「お、おう、いや、別に仕返ししようってことではないんだ。傷は残したが怨みは忘れたようなものだしな。いや、なに、少し手伝ってほしいことがあるんだ」

 そう言って持ちかけられたのは、抗争の助っ人。

 少し先に敵対しているチームと直接ぶつかる予定があるらしく、戦力になってほしいということだった。

「構いませんが、魔の者同士の抗争に私のような人間が役のたつものでしょうか?」

「相手側にも俺と同じような傷を持つ奴が多い、あんたがいるだけでビビるだろうさ。というか、俺たちを一度は倒してるんだからそんな謙遜しないでくれや」

「魔の者は自分の死因となった傷を死後自分で再現する習性がある……?」

 不思議な習性ですねぇ。

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