第1236話:イチイ・フロット~誰かよりも~

「君は、力を得るためなら努力は惜しまないと言うが、最初に聞いておきたいことがある」

「なんでしょう」

 そのやりとりはどれくらい前のことだったか、もう忘れてしまった。

 このあと、何を聞かれたんだったか、そして、なんと答えたのだったか。

 少なくともそれからたゆまぬ努力は積んできた。

 しかし、ならば今目の前に暗く渦巻く闇はなんなのだろうか。

 今まで立ち止まることなどなく進んできたはずだった。

 そうして、進んできたここはどこだろう。

 星を追い、手を伸ばして、空へ駆けた

 今見えるのは、闇。

 俺はいったい何を目指して走っていたんだった。


「君は何を目指して努力するんだい?」

 ふと思い出した、さっき思い出したやりとりの続き。

 なんと答えたのだろうか。

 それが思い出せれば今のこの自問にも答えが出るだろうか。

 俺は何を目指して努力していたのだったか。

 星を追った、そうだ、誰かに憧れて、その誰かより凄くなりたくて、走り続ければ追い付けると思った。

 じゃあ、どうして今はその星も見えず、闇の中であがいているのか。


「みんなより、凄い人になりたいからです」

 あぁ、あの問いにはそう答えたんだった。

「みんなより、か。やめておきなさい、今の周りを追い越す頃にはさらに上が見えるようになり、その先も同様だ。目指すなら」

 記憶の中のその人は、空を指し

「星空の向こうを目指すのではなく、星を目指しなさい。それは導になる、目指す星を見失わなければ、迷うことはない。越える日が来たら次の星を探せばいい」

 そんなことを言っていた。

 たぶん、その時の俺は意味をしっかり理解していなかったのだろう。

 いつの間にか、忘れていて目指すべき星を失っていた。

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