第1215話:ヴィズ・アルデポ~点のような記憶~
「遅刻だぞ」
そう声をかけてきたのは昔馴染みのフゥイ。
「え、」
遅刻と言われてハッとする。
ここは研究院の正門だ、急がなくては遅刻してしまう。
「待っててくれたのか?」
わざわざ正門で声をかけてきたということはそういうことなんだろうか、いつまでたっても来ない僕のことを心配してここまで出てきて待っていてくれたのかもしれない。
「いいや、俺もちょうど今来たところさ、そこでぼーっとしてるお前を追い抜いてな」
「そうだったか」
「ほら、いつまでぼーっとしてるんだよ、そろそろ行かないと本当に遅刻するぞ」
「ああ、そうだな」
自分一人で先に行ってもいいのに、わざわざ声をかけてくれるなんて、いい奴だな、俺をかばって死ぬぐらいだもんな、あれ、あいつは死んだのに、じゃあ、ここは……?
何かに気づいたとたん、周りの風景は光の粒子になって解けていく。
「どうした、ぼーっとして」
「え、」
研究室だ。
なんだったっけ、何かを思い出しそうになって、あれ?
「話聞いてたか?」
「いや、なんだっけ……」
「今度の旅行、どこへ行こうかって話。俺はリョクゴがいいと思うんだけど、お前はどっか希望あるか?」
「リョクゴか、いいんじゃないか」
あそこは景色もきれいだし、研究の息抜きをするにはもってこいの場所だと思う。
「前に行った時はさ、確か」
「前に行った時?」
「あ、いや初めて行くよな? 俺、何言ってるんだろう」
解ける
「いやぁ、話に聞くようにいい場所だな」
リョクゴ、手付かずの自然が多く残り、人工物は駅から宿へ至る道程度の場所。
宿の周囲の山は自由に散策を許可されているが、整備されていない自然だ、何が起きても自己責任という土地だが、その代わり誰も知らない景色が見られる。
「そういえば俺が死んだのはこんな日だったな」
「え、」
ああ、やっぱり、フゥイは死んでいたんだった。
研究の息抜きで来た、リョクゴで景色のいい場所を探してる時に崖で足を滑らせた俺を引き上げて、代わりに自分が谷底へ。
景色が解ける
点描のようになった正門研究室リョクゴの森がごちゃごちゃと渦巻く中、フゥイと二人対面する。
「お前、あの後何度もここに来たんだな」
「うん、どうしても気になって」
「まぁ、お前らしいと言えばお前らしい、さっさと忘れればいいものをこんな夢まで見て」
「たまにだよ」
「お前の言うたまには結構な頻度だからなぁ。ともあれ、さっさと起きろ、遅刻だぞ」
「え、」
点に解けていた景色は弾け、目を開けて見えたのは見慣れた天井と、見慣れたフゥイの顔。
「いつまで悪夢でうなされてんだ、前の世界のことをいつまでもまったく、飯はできてる、さっさと着替えて出かける用意をしろ」
「あ、ああ……。もしかして、寝言聞いてたか?」
「そりゃああんなはっきりとした寝言、俺は無視できないね。あと、その寝言たまに言ってるぜ、たまにな」
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