第1216話:リャガ・ウイント~一瞬戻る~

 今、何が起こった?

「俺の勝ちだな」

 軽い組手程度の立ち合い、先手は絶対に俺が取った。

 踏み込んで相手の腹に打ち込んだ。

 なのに、今額にじんじんする痛みを感じているのは俺の方だ。

「どうした、あんなに勇んできたのにこの程度か?」

「まさか、まだやれる。今のは」

「何かの間違いだってか?」

 このやろう、煽るのが上手いじゃねぇか。

「どうやら先読みが得意みたいだが、次はこうはいかねぇ。構えろ」

「言われなくとも、期待してるよ」

 立会人役の奴が「開始」を宣言した瞬間、一歩下がりステップを駆使してフェイントをかける、自慢の体重移動を最大限駆使した三重のフェイントを交えて決めの踏み込みをごまかして確実に脇腹を突いた。

 確実だ、手ごたえもばっちり。

 例えさっき殴ったのが残像だったとしても、今この手ごたえは出ねぇ。

「なんで……」

「これが実力の差ってやつさ」

 なのに、倒れているのは俺だった。

「てめぇ、何かズルしてやがるな?」

「してない」

「嘘つけ、今絶対に俺がお前の脇腹を突いてた」

「僕は突かれてないよ、突かれていたら痣ぐらいできるだろう?」

「待て」

 裾をズボンの中に入れている上着を上げて脇腹を見せようとするのを制止して、先に言う。

「中に着ているシャツは青い」

 その一言を聞いたとたん動きを止めて、距離を詰められ耳元で

「…………わかった、ちょっと裏で話そう」

 とそう囁かれた。



 そうして連れ込まれた裏。

「何に気づいた」

「俺が突いた時に服がまくれ上がって見えたんだ、青いシャツがよ」

「それで、僕のズルの証拠にはならないだろう?」

「なるから裏に連れ込んだんだろうが、からくりはわからないけどお前、俺に打ち込まれたのを変な超能力か魔法かで無かったことにしやがったな?」

「…………」

「あとから見返してみたら、きれいに入った裾から青いシャツは見えなかったからよ、見えてないのに言って実際に青かったら突いたのにそれが無かったことになってるしか考えられねぇ」

「本当、よく見ているな君は。熱血脳筋タイプかと思ってたら、こざかしいこともするし、邪魔になるかもしれない」

「俺を殺してそれを無かったことにでもするか……?」

「しないよ、そんなこと。そうだな、ちょっとした契約をしよう。僕のこの能力のことを黙っていてくれたら君のためにも少し使ってあげよう」

「悪事に引き込む気か?」

「いいや、別に僕は悪事とか興味ないし。例えばそうだな、君が下手なことしてピンチになった時に下手なことをしなかったことにするとか。知ってるんだよ、君がよく変なところに首突っ込んで危ない目に遭ってるの」

「それは助かるな……」

「もしバラそうとしたら、バラしたことを失敗させるからね」

「お、おう」

「じゃあ、これからよろしく」

そう言ってその場を去ろうとした奴に結局わからなかったことを聞く。

「結局、お前の能力ってのはどういう能力なんだ?」

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