第1185話:ジェーン・トリバ~海底探索~
「海底に宇宙生物がいるって?」
「はい、【
昼休みの噂みたいなノリで重要な話を持ってくるんじゃない、そう言おうと思ったが聞きながら口に含んだ唐揚げが邪魔をした。
うぐっとなりながらも飲み込んで、
「それは調査に行かねばなるまい」
それだけ伝えた。
「しかし、海に宇宙生物ですよ? どう思います?」
「この世界に宇宙はないからなぁ、海と宇宙は世界や文化によっては同一視されることもあるし、不思議な話ではないんじゃないかな」
「そうは言っても重い水で満たされた高圧力の世界と何も無い無圧力の宇宙じゃ真逆ですよ、宇宙空間に適応した生物が海中で過ごせるとは思えません」
「それはそうだ、概念や思想に生きる幻獣の類ならともかく、質量を持った物理的な生物だと似てるだけで真逆の空間には適応できないだろうね」
「じゃあよく似た別の生物だったんでしょうか」
「まぁ、それを調べに行くわけだからね。しかし、ゴウルトアルアフークならありえない話でもない」
「名前はたまに聞きますが、どういう場所なんですか?」
「海って言う概念のごった煮みたいな場所だよ、一種の異界だね。行ってみればわかるさ」
「はぁ」
「さて、ここがゴウルトアルアフークだ」
「これ、海なんですか?」
「そう、分類上はね。君の感覚では崖と言うのが近いかな?」
足元に広がるのは底の見えない崖。
「ここら辺はちょっと前から研究されてる【到達地点】ってやつでね。まぁ普通の物理法則が通じない、普通の物理法則とは何ぞやというところは置いておいて、浮力は少しある、空気は一応あるが圧力はないらしく、とりあえず現在の調査では低浮力の海用の潜水艦がそのまま使えるみたいで使っている、だったかな」
「これ、底あるんですか?」
「一応観測されているみたいだ、底の研究所まで直通のゲートがあるからそれを使おう」
「空が見えませんよ」
「上から底が見えないぐらいだからなぁ。して、これが観測されたデータか」
報告にあった宇宙生物、俗称【星喰い】だな。
「俗称で星喰いなんて呼ばれてる生物はどこにでもいるんだからそろそろ名称ちゃんと分類すればいいのになぁ」
大きすぎて複数個体が各世界に存在しているのかすら調査できないらしいらしく、どの世界でも俗称止まりなのが現状なんだが。
「この特有の紋様で星喰いと判断したってことは、クレアレス宇宙系の星喰いか……、存在は聞いていたがついに死んだのか、それとも別個体か」
「詳しいんですねぇ、さすが宇宙生物マニア」
「一応仕事にもしてるぐらいだからな、普段は仕事なさすぎて別の仕事してるが」
「え、そうだったんですか?」
「そうだよ、なんでお前は俺にその話持ってきたんだ」
「部長がこの話を先輩に持っていくと喜ぶぞって」
なるほどな……
「で、どういう生き物なんですか?」
「名前通り星を食う怪物だよ、腹の中に別の宇宙を持ってるらしくてな、食われた経験のある奴に話を聞いたことがある」
「食べられたのに生きてたんですか!?」
「普段食べてる物に付着してる微生物も体内に取り込まれた段階では生きているのと同じだ、丸呑みする巨大生物の中ってのは案外生きられるものなんだよ。そもそもこいつはライフライン丸ごと飲み込むし、宇宙が内包されているという話だから、食べられたことに気づくのは星空が変わったときって話だ」
「ひぇぇ、じゃあそろそろ潜水艦でこの辺を調査に出ましょうか、見てください、いつの間にか夜ですよ」
「は? 海の底で夜も何も……」
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