第1172話:トロメロトライ:メロリア~旅の記録~

「トロメロトライの手記を探しているっていうのは君かい?」

「知ってるんですか!?」

 最近村に来た若者がトロメロトライの手記を探しているという噂を聞いた。

「ああ、知っているよ。僕がそのトロメロトライだからね」

「えぇ!?」

 まぁ3000年も前の人物が目の前にふらっと現れたら驚きもするだろう。

「まぁ落ち着いて、広場の方で話そうか」

 そうして、彼を村の中央にある像の前に案内する。

「まずは何から話そうか」

「本当にトロメロトライ本人なんですか?」

 そこから疑うのは当然だろう、しかし証明できるものもないし

「そうだよ、今はメロリアと呼ばれているがね」

 そう言うしかない。

「3000年前に旅行記を出版した後この村に住み着いたんだ、ここを選んだことに特に理由はないけど、ずっと旅をしてきてしばらく一つの場所に身を置きたくなったんだ」

「確かに記録ではそう推測できるような記述がありましたね」

「そんなことまで記録に残っているのかい? そういえば確かに書いた気がするな……、3000年経ってもそういうの残っちゃうんだなぁ、気を付けないと」

 しかし

「君が初めてだよ、この村を突き止めてわざわざ手記を探しに来るようなファンはさ」

 話題を本来の方へ戻す。

「そうですね、なかなか大変でした。旅のルートや記録上の発言や目撃情報の整理とかをして数年がかりですよ」

「すごいね執念だ、うれしいよ。でもね、僕も渡すわけにはいかないんだよ、必要なものだから」

「まだあなたが生きてるならくださいなんて言わないですよ、というかなんでまだ生きてるんですか? 長命な種族の人だったんですか?」

「うん? まぁ、そんなところ。あと1000年は生きるつもりだよ」

「すごい長生きですね、いいなぁ」

「大変なこともあるけどね、昔の知り合いはいなくなるし、長命であることを隠すために名を変え立場を変え続けてるから、新しい友人と言うのもなかなか縁がない」

 像の方を見る。

「今ではこいつが一番寄り添ってる時間が長い奴になってしまった」

「もう旅には出ないんですか?」

「うーん、根を張ってしまったからね。しばらくはこのままかな」

 その後もいろいろな話をして彼は「そろそろ帰ります」と帰っていった。


「いやぁ、久しぶりに君以外にトロメロトライとして話をした」

 像の前に設置されたパネルをなぞって語り掛ける。

「今日はどの話をしようか、君が好きだったフリテニードの話がいいかな」

 古すぎて原型を失いつつもなんとかまだ起動する携帯端末デバイスに記録された旅の記録の原型が呼び出され、彼女に語る。

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