第1165話:ファクタ・フォークスⅥ~弟子~

「ってなことがこないだあってさぁ」

 例の喫茶店で先日あった弟子入り騒動を話した。

「それは、なんというかがっかりですね」

「別に、がっかりでもないさ。元から弟子を取る気は更々なかったわけだし、少し厳しい世界を見せれば簡単にあきらめるだろうと思ってたよ」

「ところで、どうして弟子は取らないんですか? 弟子にしたら仕事を手伝ってもらえるし、技術の継承は大事じゃないですか」

 まぁ、弟子を取ると言ったらそういうことになるだろうな、仕事の雑務をやらせながら基礎を学ばせて、独り立ちさせるまでの面倒を見る。

 もし俺が弟子を取ったとしても割と放任になるとは思うが……

「うーん、まず第一に俺の新種探しは仕事じゃない、趣味だ。昔の稼ぎで一生分は稼いでるからな」

 そもそものこの新種探しなんてもの自体が道楽である。

 あくまでいることを発見して報告、命名権は面倒なので売ってしまう、それがどういうデータとしてまとめられるかも知らないし、物によっては本命名がどうなったかすら気にしないこともあるぐらいだ。

「そうなんですか? じゃあもっと高い物注文してくださいよ、それか」

「他にも理由があってな、新種探しってのは知識量もさることながら運がめっちゃ重要だ。どんな要素がそろうと新種である可能性が高まるかは知っていても、それを引けるかどうかは運しだい。そういう意味ではあのタイミングでモチ石を見つけられたのはかなり運が良かった方だけどな」

 スピーリには知識で見つけたようなことを言ったが、ちょうどあそこにいたのは運だ。

「はぁ、」

「だからこそ、やり方なんていくらでもあるものだし、どちらかと言えば採算は度外視でコツコツと地道な調査をする俺なんかの弟子にしちまったらかわいそうだろ」

「へぇ、やっぱり優しいんですね、ファクタさんって」

「この店のイラついたら叩いていいルールって、客から店員に対しては適応されないのかい?」

「照れ隠しですか?」

「よし、ルールは知らん、一発小突かせろ」

 俺としては弟子入りなんてせず、自分のやりたいやり方でやればいいと思っているんだ、趣味の旅行のついでに見つけた新種を報告して名付けもしてしまうじいさんとかもいる世界なんだしな。

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