第1087話:ツーカ・ツゥケ~非実体実態~

 不思議な人に出会った。

 半透明のカプセルの中にいて、それに付いたタイヤで移動する。

『困ってたんです、助けてくれてありがとうございますね』

 スピーカー越しに聞こえる声にはかすかなノイズが載っていて、特徴的なのに個を感じさせない、不思議な声をしていた。

「困ってる人を見たら助けるのは当たり前じゃないですか」

 彼女はタイヤが段差に引っかかっていて動けなくなっていた。

 そこに僕が遭遇して助けたという出会い方をした。

『私を見ても人だと言ってくれるのですね』

「? 当り前じゃないですか」

 そう言うカプセルの中の彼女は容姿を見れば整っている方で、人以外には見えない。

 脚があるのにカプセルの中に入ってタイヤで移動するというのは少し不思議だが、体が弱いとか、そういう理由があれば不思議じゃない。

『ありがとうございます、ではまた会いましょう』

 そう言って、彼女のカプセルは偶然飛んできた石に砕かれた。


「……え?」

 何が起きたか、わからなかった。

 割れたカプセルの中身は空だった、彼女はまるで溶けてしまったかのように消え、足元にはタイヤの付いた基部と砕けたカプセルの破片が散らばっているだけで、彼女の姿はどこにもなかった。


 そんな、不思議な出会いと衝撃の別れを一気に経験した一週間後、僕はまた彼女に出会った。

『あ、先日はすいません。私、どうにも不幸体質でして、外に出るとどうにもああいう不幸に遭うんですよね。だからこうやって、部屋から出ずに外に出る仕組みを要したんですけど、これでもああいう目に遭っちゃって……』

 唖然としている僕に、彼女は自身のことを語る。

『ああ、あの時突然消えた私が今ここに無事でいることに驚いているのですね。ええと、簡単に言うとですね、今ここに私の体は虚像なんです』

 自身の体を指し示して、どこからか取り出した棒を自身に突き刺した。

 何の抵抗もなく通り抜けた棒はどこかに消え、次は足元、カプセルの基部を指して説明を続ける。

『ここに立体映像投影装置があって、今あなたが見てる私は立体映像で、私の本体は私の部屋から出ていません。だから、こないだみたいに不意の事故でカプセルが壊れても私は一切のけがをしたりはしないんです。びっくりはしますけどね』

 そして最後に『だから、私がいきなり消えても心配しないでください。また少ししたらこうやって現れますので』と、少しだけ不安そうな顔で言った。

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