第1085話:エニチ・カルテ~工場見学~

「本日は当工場の見学会に参加いただき、ありがとうございます」

 以前から参加したかった食品工場の見学会の抽選にようやく当選し、当日。

 案内人は食品工場のスタッフというイメージからは外れて、特に白衣等の適切に清潔感がある格好というわけでもない、

「食品生産ラインは完全に隔離されてるので、特に清潔な格好でなくても構わないですよ。みなさまも着替えたりはせずともかまいません」

 みなそれを気にするのか、思ったことをすぐに説明してくれた。

「ではこちらにどうぞ」

 案内されて、施設の奥に進む。

「ここが梱包ラインです、みなさんの手元に届く前の最終工程ですね。見たことがあるものも多いのではないでしょうか」

 通路の右側はガラス張りになっていて、パックされた食品がコンベアの上を流れていた。

「そして、安定供給が容易な食材ばかりではありません。あれを見てください」

 示された先のラインに並んでいたのは希少生物の肉を使った冷凍ハンバーグだ。

「あれの材料になる動物は元の世界では個体数が少なく、寿命も長いため、めったにこの世界では手に入ることはありません」

 確かに、あれと同じ世界の出身の奴が「元の世界では幻の食材だった」と言いながら食べているのを見たことがある。

「それを量産するために、私達の工場では材料となる雑多な生物の肉から構成成分を抽出し、素粒子レベルで構築しなおすことで希少生物の肉の安定供給を可能にしているのです」

 なんと、希少生物を再現した合成肉だったのか。でもそれじゃあ

「それでは、あれは表示と違う肉なのでは?」

 そうなってしまう。

 あれは件の希少生物の肉であるから売れているのだ、味もいいがそっちのブランド性の方が強い。

「いい質問ですね、その点は問題ありません。単なる合成肉であれば、嘘になりますがうちでは合成肉で作った生きた体を死なないように管理している該当の動物の魂と結合してから食肉加工を施しているので、質実共にパッケージに表示されている動物のお肉ですよ。あれも、これも、それもです」

 次々に指し示されるラインを流れる食品たち。

 それがどれも一度パッケージに書かれているものを経由しているとはいえ、まったく違う物から生成されていると知ってしまって、これからも同じようにあれらを食せるかどうか自信がなくなってしまった。

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