第1052話:トイア・ミデニロ~あらしのよる~

「まいったまいった、まさかこんな嵐になるなんて」

 町から離れている時に突然の嵐。

 雨ぐらいは降るだろうと思っていたから、傘は用意していたけどさすがにこの勢いでは役に立たない。

 なんとか雨風をしのげそうなそこそこ広いあばら家を見つけて駆け込んで一息ついた。

「少し吹き込むがまぁ、この程度なら何とかなるか」

 がたがた言う窓枠は頼りないが、まぁこの嵐の間ぐらいもってくれるだろう。

 念のため、離れていた方がいいだろう。

 そう思って小屋の奥へ進もうと思った時、闇の中からガタリと音が聞こえた。

「誰かいるのか?」

 闇の中に問いかけると、すぐに返事が返ってきた。

「雨宿りを指せてもらっている、この小屋の主か? 雨が止んだらすぐに出ていくので、できれば泊めてもらいたい」

「いや、僕も雨宿りに寄っただけだよ。人がいて安心した、そっちへ行っていいかい?」

「できれば来ないでほしい。少しばかり私の顔は醜くてね、この小屋が暗くて安堵していたところだったんだ」

「わかった、ここよりは近づかない。僕はこちら側にいて明るくなったらそちらを見ることなく先に出よう」

「ありがたい、助かる」

 嵐の中の小屋の中、どこにも行けないのだからこんな小屋の中で諍いをおこすぐらいなら、近づかない方が楽だ。


 ずっと暗かったが、夜の時間になって嵐は収まらず。

 日課である武器の手入れを手元だけ照らして行う。

 今日は突然の嵐で中断したが、明日こそはあの魔物にとどめを刺さねば。

 そうやって、明日に備えた準備やその他をしながら夕食をとる。

 そうだ、

「そういえば、ご飯は食べましたか」

 そう、闇の中の隣人に問いかける。

「あ、いえ。私は何も食べるものを持っていなかったので」

「それなら、これ食べます?」

 少し余裕をもって用意していた食料を照らしながら聞く。

「いいんですか?」

「どうぞどうぞ、これも縁です」

 闇の中にパッケージごと投げ込む。

「ありがとうございます」

 そんなやり取りをして、向こうも警戒が解けてきたのか、その夜はいろんな話をして、気付いたら寝ていた。


 朝になり、嵐は去っていて明るい陽光が荒に耐えた窓から差し込んで小屋の中を明るく照らしていたが闇の中の彼の姿はすでになかった。

「寝ている間に出て行ったのかな」

 昨夜は久々に楽しい夜だった、さて嵐も晴れたことだし軽く朝食だけ取って魔物を狩りに行くとしよう。

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