第1008話:ウナ・ローン~温泉の効能~


「おや、ヘクシアじゃないか。君も来ていたのかい? ああ、やっぱりさっきすれ違ったのは君のマスターだったか」

 温泉から戻ってきてみるとロビーで虚空に視線を向けていたのはたまに預かって調査しているロボ。

「おや博士、博士も来ていたんですねロボ」

「そのとってつけたような語尾は治らないねぇ」

「マスターの指示ですのでロボ」

「そのわざとらしさも?」

「こういうのがお好みのようだったので、ロボ」

 彼女の趣味はよくわからん。

「どうだい? 温泉には入ってきたかい?」

「同行の許可が得られませんでしたロボ」

「あぁ、見かけだけなら君は男性型だからねぇ、同行を拒否されてもしかたないか……。しかし男湯もあったろう?」

「マスターに入浴を禁じられたので、ロボ」

「まぁその辺は主人の意向か、仕方ないね。温泉に入らずとも自己メンテナンスや清掃はしっかり行っておいてくれよ、言うまでもないことかもしれないけどね」

「了解しました、ロボ」


 さて、想定外の遭遇はあったものの自室へ戻ってきた。

 同室だったナットはどこかへ行っているのも都合がいい。

「さてと」

 カバンから取り出したのは普段使っているのとは違う携帯端末デバイス

 温泉というものは健康にいい、それは物理的な肉体にとどまらず、精神面、魔力面でも改善されることが多い。

 とくに、事前の調べではここの土地はそれなりに力のある土地であり、そんな土地の温泉であれば、多少なりとも魔力が回復して魔法が使える最低限のレベルになっていてもおかしくはない。

 私も昔は世界最高の魔導士と呼ばれた身、今は魔法を失い、テルヴィアで技術者をやっていたとしても、魔法が再び使えるようになるのであれば使えるようになりたい。

 そう思って、これは普段使いしているものとは別に持っている、テルヴィアから出るときだけ持ち歩いている魔法がインストールされている端末だ。

「いざ、」



「うあー、ダメだぁ……」

 泣けてくる、温泉でじっくり体の芯からあっためて魔力の芯を刺激するに十分な力の地で、しっかり魔力の溜まった携帯端末デバイスを用いても魔法を発現させられないとは……

 分かっちゃあいても、直面するだけで悲しくなってしまうな……


 ……またあとで温泉に入ってこよう、魔力とかは抜きにして、単に気持ちよかったし……。

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