第995話:オミヤ・メバル~食べる音がうるさい~


 ──グチャグチャ

 隣の人の食べる音がうるさい。

 どういう物の噛み方をしているのか、ひどく不快な音をたてながら食べている。

「なぁ君、食べる音がうるさいんだけど?」

 さすがに耐えきれずに注意をする。

 ──グチャグチャ

 だめだ無視された。

「なぁ、君に言っているんだよ、うるさいぞ!」

 少し、語気を強めて言ってようやくこちらに目線を向けた、

 ──グチャグチャ

 が、無視!

 一瞬だけ目線をこちらに向けただけで、音をたてて食事継続。

 こいつ……

「うるさいと言っているだろう!」

 激昂して、肩を叩く。

 そうして、彼はようやく食べるのをやめた。

「なんで、最初からやめなかったんだ」

「別にやめる理由がなかったから」

 聞いたことには思いの外素直に答えた。

「僕がうるさいと言ったが?」

「そんなこと、やめる理由にはならない。あなたの不機嫌は僕には関係ないでしょう?」

「なっ、」

 なんてやつだ、他人の不愉快を意に介さないとは。

 とんでもない悪人だな。

「今、やめたのはあなたが思いの外短気で、暴力的な手段に出そうだったからです。さすがに僕も痛いのは嫌ですから、ではこの辺で」

 そう言って彼はその場から立ち去った。

 なんて利己的な奴だったんだ、そう思いながら苛立ちを静めるために僕はタバコに火をつけた。

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