第992話:トリカゲ・サタル~月~
「月ってどんなだったかなぁ……」
夜の空、黄色く薄燃える太陽を窓から眺め、そういう物があったなぁと思いだす。
「月というと、どの意味での月だ?」
対面に座る彼が私の適当なつぶやきを拾って返してくる。
「どの意味とは」
完全に虚空に散らすつもりでこぼした言葉が拾われて、ちょっと動揺したことを差し引いても彼の言うことがいまいちよくわからない。
月なんて、夜空に浮かぶひときわ大きな星以上の意味は無いと思うんだけど。
「惑星に対する衛星としての月とか、世界によっては隠語としての月、物理的な月、情報工学的な月、魔術的要素としての月とか、あとは暦としての月かな?」
「そんなにあるの?」
「モチーフとして使いやすいんだろうよ。基本的には天体としての月が元であることが多いけど、たまにすでに天体としての月は無くなってて、慣用句にのみ月が残っているということも稀にある」
「私が言った月は天体としての月だけど」
「そうか天体としての月か、確か君の死に世はクアラプレーラだったかな? クアラプレーラの月なら、確かデータを前に見たことがある」
「本当?」
これはびっくり、別にふと思い出しただけでわざわざ見たいとも思わなかったけど、見れるというなら見てみたい。
「えーと、これかな」
そう言って提示された3D写真はでこぼこした岩の塊のようで、おぼろげに記憶にある月とは違う物だった。
「月ってこんなのじゃなかった気がするけど……?」
「何を言うんだ、これは紛うことなくクアラプレーラの月だよ」
「えぇ……?」
月ってどんなだったかなぁ……?
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