第978話:キテーリア~記憶の隙間に~
私の特技は催眠術。
少しの会話の中に特定の単語をいくつか混ぜ込むことで、相手の記憶から記憶を消すことができる。
その特技をうまく使うために、本来なら口数が少なかったのに無駄に言葉を増やす癖がついてしまった。
そして、さっき私は好きな人の大事な人になるために、彼の記憶を消した。
「私はキテーリア、あなたと初めて会ったのは2年前、たまに遊ぶぐらいの仲で、最近は友達として二人で出かけることも多かったわ、その時あなたがどう思っていたかはわからないけど、さっき私に告白してきたの、ここまでは大丈夫?」
2年前からの記憶を部分的に消した彼に過去にあったことを教えていく。
「そうだったのか、僕と君はそういう関係だったんだね……。一線を越えようとして、僕はそれを忘れてしまったのか……」
「そうよ、あなたは悪くないの、これからまた二人での思い出を増やしていきましょ? 過去よりも今、未来の話をしましょう」
「あ、うん……」
彼は私との関係を信じたようだけど、まだ腑に落ちていないという様子。
「どうしたの? 何か不安なことでもある? 記憶が部分的にとはいえ、無くなっているのだもの、不安なのは仕方ないわ。私が補ってあげるから、安心して……」
「うん、それなんだけど、まだ少し時間をくれないかな。まだ僕が君に、その、愛の言葉を贈ったっていう実感が無くてさ、いや君のことを全部忘れているからっていうのもあると思うし、とても失礼な話なんだけど」
彼は一つ間をおいて言う。
「今の僕が君のことをまた好きだと言えるようになる自信が無いんだ」
たぶん、その言葉は真実だと思う。
私の催眠術は記憶を消すことはできても、気持ちの書き換えのようなことはできない。
だから、私は過去の記憶に隙間を作ってそこに私がいるということにして、私が好かれる流れを作ろうとした。
だけどやっぱり、上手くはいかないみたい。
彼は彼、記憶が無くてもそれは変わらなかった。
「ごめんなさい、あなたを私に付き合わせてしまって。忘れてもらって構わないから……」
記憶を消された後の呆けから復帰した彼を物陰から見る。
「あれ? キテーリア? 今まで話してたはずなんだけど……あれー?」
私を探しているが、見つかるようなところにはいない。
結局彼の記憶はほとんど消してない、私が彼に対して別れのセリフを言って隠れる間の記憶だけ消させてもらったけど、それだけ。
次に会うのはいつのことになるかわからないけど、彼は私のことを覚えていてくれるだろうか。
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