第952話:ヨエキ-コオズミ~死ぬのが怖い~

「昔はさぁ、死ぬのが怖かったんだよ」

 しみじみと昔のことを思い出して、うつらうつらとしはじめた意識の中で話し始める。

「昔って、いつのこと? 前の世界での話?」

「いや、前の世界でもそうではあったけど、怖くなくなったのは少し前で」

 なんだか、よくわからなくなる前に話を進める。

 今のままではいつ意識が落ちるか、わかったもんじゃない。

「前の世界で死ぬ直前は、本当に死ぬことが恐ろしかった、一人で生きてきて、一人で死ぬなんて考えられなくて、永遠死なずに生きていきたかった」

「その考えはわかるわ。でも、それは普通のことなのではないの?」

「そう、普通のことだよ。普通に抱く恐怖のそれを、とても大きなものとして捉えてしまっていてね、まぁ、だからといってなにも解決するようなことをしたり、不死を目指したりしたわけではなく、漫然と死に至ることに恐怖を抱いて生きて、死んだ」

「あなたは普通の人ですものね」

 そうだ、この話は特別な終わりを迎えるわけではない。

「だけど、今は死ぬのがあんまり怖くはないんだ」

「それは、どうして?」

「君がいるから。思うにさ、死ぬのが怖かったのって、看取って欲しい誰かがいなかったからかもしれない」

「……そう。じゃあ、いってらっしゃい」

「うん、いってくるよ」

 眠るように目を閉じた。

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