第953話:フィスズラ・ノウイン~嘘の嘘~
「最近テルヴィアに魔女が出ると噂になってまして」
「わはは、君はいつも嘘をつくな」
「でしょう? しかしなかなかに騙されてくれませんねあなたは」
「もちろんだ、我は賢いからな。些細な嘘も通じぬと思え」
僕は彼に嘘をついた。
彼は僕の嘘を看破することを楽しんでいて、僕は彼にだけ嘘をつく。
それが僕と彼の関係だ。
「水スライムと言えば、ベッドにするという話を聞いたことがありますよ」
「む、それは嘘だな。我でなければ見落としていた程に不自然なく話を運びよって、実に見事である」
「ええ、感心の出来ですよ。思いついたのは今ですけどね」
「わはは、まったく嘘がうまい」
「でしょう? それだけが自慢ですからね」
うん、もちろん嘘だ。
「古戦場で古の技を集めて回る探索者の人がいるそうですよ」
「うん? それは嘘だろう? どうした、今日の嘘はキレがないぞ?」
「いえいえ、あなたがだんだん敏くなっているんでしょう」
「嘘だな? いやそれでもいい、ならばもっと精進してくれよ、我は君の嘘をいつだって楽しみにしているのだからな、体調にも気を付けるのだ」
「あは、また嘘を磨いておきます」
彼に嘘をつくときはあんまり考える時間が無いし、速度が大事だ。
「この世界のどこかには無限に増えるふわふわがいる森があるとか」
「へぇ、そんなのがあるんだ」
「おや君、見ていたよ。また嘘をついているのか。私以外は騙されてしまうだろうから大概にしておきたまえよ」
「そうですね、気を付けます」
僕が嘘をつくのは彼にだけで、彼は僕のつく嘘を楽しみにしている。
彼は僕が他の誰にも嘘をつかないことを知らない。
これが僕と彼の関係で、信頼の形だ。
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