第951話:トオラ・フンニブ~無難の難~

「ここはこう、そうすればいい感じになるから」

「あー、なるほど、ありがとうございます」

「またいつでも相談にはのるよ、無難な意見ならいくらでも出せるからね」

 部下の相談に無難に返して、自分の作業に戻る。

「さて、」

 どうしたものかなぁ。

 いままで無難にいろいろと仕事をしてきて、ここらで一つやり方を考え直さなければいけない気がしてきた。

 いや、無難なやり方はいい、悪くはない、間違ってはいないし、考えようによってはいい。

 だから部下に仕事を教えるときは無難な方法で教えるし、それなら大きな失敗はしない。

 だけど、失敗しないだけなのだ。

 無難は失敗しないだけで、大成するものでもないのだ。

 だから、そろそろ無難にやるのをやめて、大胆に動いていこうと思っている。

 そう、考えてみたのだが。

「思ったようにはできないなぁ」

 天井を見上げながらひとりごちる。

「どうしたんですか?」

「やっぱり無難っていいなぁ……って思ってさ」

「もしかして疲れてるんですか?」

「かもしれない、最近悩み通しだったから」

 同僚に心配されてしまった、まぁ頭がおかしくなった発言だと思われても仕方がないか。

 天井で回るシーリングファンを見て、

「さーて、今日も無難にやっていくかな」

 一つ伸びをして、そう口に出して宣言する。

 挑戦するのはいまではない。

 単純にリスクを取るだけではそれは挑戦ではなく無謀である。

 言うほど追い込まれているわけでもないのだ、もうすこし、無難にやっていってもいいだろう。

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