第950話:スノッカ・トライト~飲酒防衛線~
「お久しぶりです」
「そういう堅苦しい挨拶はいいからさ、飲もうじゃあないか。話はそれからでもいいだろう?」
ああ、これは飲みたいだけだ、私が用意してきた、希少酒をただ飲みたいだけ……
話を聞く対価として用意したにもかかわらず、こいつ、酒だけ飲んで帰るつもりなのでは……
「いいえ、ダメです。あなたはあまり強い方ではないでしょう? これはとても強い酒なので、ある程度話してからです。今日は宴会ではなく、話をしに来たのですから。そしてこれはその対価として用意したものですので」
ここはきっぱりとダメであることを示しておかないとダメな気がする。
瓶を抱え込むようにして
「うーん、まぁそうだねぇ。 でも、飲んでれば口を滑らすってことも、ね?」
食い下がってくるな、それらしい理屈をつけて。
「滑って出る話なんてのは後からでいいんですよ」
「しかたない、自前の方を飲むとするか」
そういってお猪口を取り出して、懐から取り出したボトルから液体を注ぐ。
「あ、ちょっとずるいですよ!」
それはダメでしょ、どうしても飲みながら話したいからって。
「さて、話を始めようか、何から話す?」
「あー、もう飲んでしまいましたね。ダメだって言ったじゃないですか、もうこれは渡しませんよ、これからの話次第ですけど」
こうなってしまってはもう有意義な話なんてできないだろう、かれこれもう3度目なんだ、いい加減どうにかしたい。
「え~いいじゃろ~? それもおくれよ~」
「あー、もう、もう頭が回ってないじゃないですか。寝て、また今度話すことにしましょうよ、ほら」
「いいじゃろ~」
「良くないですから」
なんでこんな一杯で記憶が頻繁に飛ぶような人が酒を対価に話なんてしようとしているのか。
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