第934話:ジャスガ・イリハマ~花見の季節~

「そろそろ花見の季節ですね」

「もうちょっと先じゃないか?」

 最近少し暖かくはなってきたが、雪の溶け残りが辺りに散見されるような時期、春季の花の時期にはまだ早い。

「あぁ、普通に言う花見はそうかもしれませんね。そうだ、次の休みがちょうど見ごろのはずなので、予定空けておいてください」

「お、おう。わかった、空けとく」

 こいつが言う「普通に言わない花見」とはどんなものか、だいぶ興味が出てきた。


 して、次の休み。

「あれ、そんな恰好で行くのか?」

 待ち合わせ場所に来てみたらやけに厚着をしていて、暖かいといってもまだ、という感じの最近の気候でも暑そうという印象を抱く格好だ。

「まぁ寒いところなので、今からでも上着用意してから行った方がいいですよ」

「まぁ、そう言うなら」

 道すがらあった服屋に寄って「それじゃちょっと寒いと思いますよ」などと言うアドバイスを受けながら防寒着を買い、目的の花見場へと歩く。

「どれぐらいのところにあるんだ?」「そんな遠くは無いですよ」「へぇ、意外と近くに知らないところもあるもんだな」「そうは言っても、知ってるところそんなにないでしょ、出不精だし」「いやいや、具体的にどこを知っているかって言われると数えるほどしか挙げられないが結構いろんな穴場を知ってるんだぞ?」「そうなんですか? じゃあ今度僕を連れて行ってくださいよ」なんていうたわいもない会話をしながら歩いて1時間、

「結構遠いじゃねぇか」

「もう着きますから」

 そう言って着いた場所は洞窟。

「ここですね」

「花見に来たんだよな?」

「ええ、もちろん」

 訝しみながら穴に入っていくと、何とか外から入ってくる光で見えるぐらいで、よく見えない。

「なんで明かりを点けないんだ?」

「まぁ、そろそろいいかな。明かりを点ければわかりますよ」

 そういって、持ってきていたランプに火を灯す。

「おぉ、こりゃあ……」

「いいでしょう、暖かくなり始めの今の時期しか見られないんですよ」

 そう言って見せられたのは氷でできた花だった。

 雪解けの水が岩肌にしみこんで、気温が低い洞窟の中で花状に凍るらしいとかそういう話はどうでもいいぐらいに綺麗で、なかなかいいものだ。

「いい場所知ってんなぁ、よしまぁ、氷の花をつまみに飲むぞ!」

「ええ、体あっためながら楽しみましょうね。先輩の方の花見も楽しみにしてますよ」

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