第932話:スタラグ・メメロ~同期ズレ~

「問題です、これは何でしょう」

「……キノコ、種類まではわからんが」

 行きつけの店に入ったら突然キノコを突き付けられて、そんな質問をされた。

「はぁ~」

 店長はいないみたいで、何人かの客がなにやら顔を見合わせてため息をつく。

「君にはこれがキノコに見えるのか」

「キノコ以外の何物でもないだろ」

 まぁキノコ型の何か別の物かもしれないが、俺にはキノコにしか見えない。

「これは、そうだななんに見える?」

 他の客にそのキノコを見せて尋ねる。

「俺には酒瓶に見えるぜ」

「キノコ型の?」

「いいや、普通に首が細くなって胴が太くなってるやつ」

「それはさすがにキノコと間違いようがないよな?」

「もちろんだとも、この酒瓶がキノコだなんてなぁ?」

「くっそ、てめぇら示し合わせて何かたくらんでやがるな?」

「いや?」

「実際にこれが酒瓶だってことは間違いないからな、ほら見てみろよ」

 そう言ってちくわを持ってきた。

「見てろよ、こうやってこの酒瓶でこのコップに注ぐとだな」

「いやそれ、ちくわだぞ?」

「あ? あーあーそうか、そうか、こっちもズレるのか」

 そう言いながらキノコから砂糖をちくわに注いで、ちくわは砂糖で満たされた。

「どうよ」

「頭がおかしくなりそうだ……」

「まぁ、おかしくなってるのはこの空間だな」

 そう言って、砂糖でいっぱいになったちくわを煽る。

「まぁ、種明かしをすると、どういうわけかこの店の中身が変なタイミングでアップデート入ったらしくてな、物がずれたらくて入ってきたタイミングで見た目が変わるんだ。機能は見たとおりだからお前はこのカップを見た目通りちくわみたいに食べることができる」

 そう言って、砂糖にまみれたちくわを差し出してくるが、食べる気にはなれなかった。

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